第50話
十分ほど経った頃に再びアナウンスが流れ、真唯はドキドキしながら内容に耳をそばだてた。
【えー、お待たせして申し訳ありません。踏切内の事故に関しまして......未だ通過出来る状態にはなっておりません。そのため、この電車も含め、しばらくは折り返し運転となりました。乗客の皆さまにはご迷惑をおかけしてまことに申し訳ありません】
それを聞いた乗客はゾロゾロと下車する。反応はそれぞれ。スマホで他のルートを検索したり、電話をかけたり、駅員に詳しく話を聞いたり。その中で真唯はまず時間を確認した。泰雅が乗る飛行機の離陸時間は十二時半。まだ二時間あるが、事故ともなればそう早く通過させる状態は難しいだろう。まず一時間は折り返し運転が続くと思った方がいい。空港までは電車だと一時間半はかかる。つまりは......泰雅が空港にいる間に真唯が到着するのはもはや不可能というワケだ。
(うそ......このまま水都さんに気持ちを伝えられないままで終わるなんて......)
その事実がショックで近くのイスに座り込んだ。そして、改めて昨夜酒を飲みすぎた自分自身を恨んだ。こんな事になるなら、気持ちを伝えておけばよかった。
悔しさのあまり涙が頬をつたった。あわててハンカチをバッグから出して拭うけど、涙は止まらない。
でも、真唯は考える。このまま泣いてばかりもいられないと。行けない事を泰雅に伝えなければ。真唯を待っていたために彼が飛行機に乗り遅れるなんてあってはならない事だ。
真唯はスマホ画面に泰雅の携帯番号を表示させると通話をタップし、耳にあてた。
数回のコール音の後に聞こえてきたのは【もしもし、真唯ちゃん?】と自分を呼ぶ泰雅の声。その声を聞いた途端、想いがあふれてしまい「水都さん......っ!」と泣き出してしまった。
【え?ま、真唯ちゃん、どうしたの?今、電車の中じゃ......】
戸惑っている泰雅に真唯は泣きながら今、駅のホームにいる事、踏切で事故が発生したために通過出来ない間は空港行方面の電車は折り返し運転になった事を話した。
「だから水都さん、私......あなたが日本にいる間に空港に駆けつける事が出来なくなってしまいました......ごめんなさい......」
謝る真唯に泰雅は「真唯ちゃんが謝る事なんて全くないんだよ。事故が起きたのも君のせいじゃない」と励ます。
泰雅の優しさが心にしみて真唯はますます泣き出してしまった。
「ありがとうございます......っ。ヒックヒック」
【......真唯ちゃん。俺こそありがとう.......何だか、女の子にきっかけをもらうのは男として恥ずかしい事だけど......そんなプライドかなぐり捨てて言うね】
「......」
【改めて......真唯ちゃん、君が好きです。韓国に行ったら三年は帰ってこられないけど......どうか俺と、恋人としてお付き合いをしていただけないでしょうか?】
「......!」
【やっぱりこのまま何も言わずに韓国になんて行けないから......】
真唯は思った。この人は更に私を泣かせるつもりなのかと。
でも。気持ちが変わっていなかった事がわかって嬉しい。
いつまでも泣いたままでいたら、返事はNGだと泰雅が誤解してしまう。
「私も。水都さんが好きです。恋愛として。韓国に転勤すると聞いた時に、水都さんへの気持ちを自覚しました。こうして水都さんへ会いに行こうとしたのも......気持ちを伝えたかったからなんです......!」
【......それ、ホント?真唯ちゃん......!】
「はい。ホントです。だから水都さん.......こんな私ですが、どうか......あなたの恋人として、これからよろしくお願いします......」
頭を下げて、OKの返事をした真唯。するとスマホから泰雅の泣き声が聞こえてきた。
【ありがとう......真唯ちゃん......大好き......っ】
泰雅からの『大好き』。
今まではその言葉を言われて抱きしめられてもドキドキしなかったのに......。
今はドキドキして気持ちがフワフワして幸せだと思う。今度抱きしめられたらどうなっちゃうんだろう。
ホント。恋って不思議だ。
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