第49話
「お母さん!私、今から空港に行ってくるね!」
そう言うと真唯は急いで自室へと向かい、身支度を始めた。一方、行き先を言われてもまだ「は?」な状態の梨乃は詳細を聞こうと真唯を追いかける。
「空港ってどこの空港?」
「〇〇空港」
「〇〇空港って......水都くんが今日、そこから韓国へ行くけど。そもそも何の方法で空港に行くつもり?」
「電車で行く!」
「電車?」
「今から行けば間に合うから」
「つまりそれって、水都くんに会いに行くって事?」
「うん」
そこで梨乃は真唯が言った『好きな人がいる』を思い出して、ああ、そうかとやっと理解した。
「今、行かないと後悔するから......行ってくる!」
真唯の決意に梨乃は「わかったわ」と言い、気をつけて頑張ってきなさいと送り出す。
(そう......この子、いつの間にか水都くんの事を......)
泰雅が真唯に一目惚れした事は涼祐から聞いてはいた。しかし当初、真唯は涼祐に恋をしていたので泰雅にしてみたら片想い。そんな中、涼祐が実の父親であると知った真唯はショックの末、ようやく気持ちにキリをつけ彼をお父さんと呼べるまでになった。
(おそらく、ひとり別の地で暮らした事で自分を見守ってくれている水都くんの存在に改めて気づいて恋愛になっていったのね)
梨乃はスマホ画面にある人物の携帯番号を表示させると通話をタップした。
「もしもし水都くん?梨乃です。昨夜は真唯がお世話になりました。韓国へ行く直前なのに突然ごめんなさいね」
【いいえ。それより梨乃先輩、どうかしましたか?】
かけた相手とは、泰雅だった。
「水都くん、あなたもう空港にいる?」
【はい。今しがた着いたところです。お昼の便に乗るので】
「ならよかったわ。あのね、真唯がたった今、あなたがいる空港に向かったの」
【え?真唯ちゃ......いえ。真唯さんが?】
「真唯ちゃん呼びでかまわないわよ。そうなの。水都くんに会いに行くんだって言って駅に向かったわ」
【......】
「だからギリギリまで乗らずに待っててくれる?」
【はい。わかりました】
「真唯の事、よろしく頼むわね」
【はい。梨乃先輩】
通話を切った梨乃は真唯と二人で映ってる画像を画面に表示させる。そして画像の真唯に向かって
「頑張れ、真唯」とエールを送ったのだった。
✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠
一方、電車の中にいる真唯のスマホに泰雅が送ったメールが届いており、確認する。
【こんにちは真唯ちゃん。梨乃先輩から連絡が来たんだ、君が空港に向かってるって。ビックリしたけど、どうか気をつけて来てね。フライトは十二時半。俺は空港の出入り口で待ってるよ】
ここで真唯は梨乃が泰雅に連絡をしてくれた事を知った。
(お母さん......ありがとう)
何個目かの駅に着いた電車はドアが開閉し、しばらくすると再び閉まり、駅を発車する......ハズだが、扉は閉まらなかった。ざわつく車内。ホームでは駅員たちが集まって何やら話をしている。
やがてアナウンスが流れる。
【乗客の皆さま、お待たせして申し訳ありません。先ほど通過する踏切内にて事故が発生したためにこの電車は当駅に停車する事になりました。乗客の皆さまにはご不便をおかけしますが、新たな情報が入るまでしばらくお待ち下さい】
「......」
真唯はもの凄く嫌な予感がした。不安で心臓が高鳴り、何とか動いてくれないかと祈った。
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