第2話 平和【後編】
北野と西田は青い顔をして雀荘の外にいた。二人とも上着を着ていない。俺の顔を見ると、雪が降るのも気にせず近づいてきてくれた。
「南野、お前が帰ってから、急に東田が苦しみ出したんだ。すぐに救急車を呼んだんだが、死んでるって言われて…」
「あぁ、死因は即効性の毒物の可能性が高いって。今、救急車で運ばれたよ。」
北野と西田が、俺が帰った後の状況を説明してくれた。
警察から東田の実家の連絡先や、所属の研究室、東田が倒れた時の状況を聞かれ、ようやく解放されるかと感じたのは午前3時を回っていた。
「最近よくない噂を聞いてたからなぁ…、東田。」
もう提示する情報もない、となった時に、人間は手持ち無沙汰のように取り留めもない話をするもので、ぼそっと西田がつぶやいた。
「どんな噂ですか?」
人間の緩急をよく知っているであろう警察官が、ゆっくりと質問をする。
「いやね、最近、すごく羽振りがよかったんです。かと思ったら急に金の無心をしたりと、よくわからなくて。噂では半グレ集団と付き合いがあるとか、反社に所属しているとか。まぁ根も葉もない噂ですけどね。でもだんだん東田がめんどくさくなってきていたのは本当なので…今日を最後に付き合いを控えようと思ってて…。」
西田は誰に話すでもなく、追悼するように淡々と最近の東田の様子を吐き出していた。
これから警察は東田の部屋へ捜索に入ることになるだろう。そこでいろいろなものが見つかるはずだ。我々が警察と関わるのはこれでおしまいだ。
東田の死因はアナフィラキシーショック。
―ラテックス・フルーツ症候群―
パイナップルやキウイにアレルギーがある人が、ラテックスゴムをアレルギー源と誤認してしまう交差アレルギー反応だ。
東田がパイナップルアレルギーであることは、しばらく前から知っていた。ゴム素材は世の中に溢れているが、最近ではラテックスフリーが多くなり、あまり見かけなくなってきたところだ。どうしようかと数日間思案した。
―数日前―
授業の空きコマに、南野は雀荘の店長を訪ねた。
「店長、この滑り止めスプレー、おすすめですよ。サイドテーブルのマットがズレるってぼやいてませんでした?」
「南野くんか、ありがとう。そっか、そういうものがあるんだな。最近の若者はネットからいろんな情報をとってくるからなぁ、すごいよ。」
「いや、いつもお世話になってますし。」
「こっちこそ。みんな丁寧に麻雀をしてくれて助かってるよ。行儀の悪い人もいるからね。」
「そう言ってくれるとここに通いがいがありますよ。暇だし、このスプレーでサイドテーブルのマット直してもいいですか?」
「お、ありがとう。なんか食べてくか?炒飯ぐらいしか作れないが。」
「店長の炒飯、うまいから嬉しいですよ。じゃあやっときますね。」
俺はサイドテーブルや椅子、東田が触りそうなところに丁寧にスプレーを吹きつけた。
ー完ー
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