第287話 ある親子の対面
対峙する二人の男。
玉座の高みから見下ろすはハルジア国を統べる賢王グシャ・グロリアス。
もう一人はその存在が認められぬと睨みつける魔人ルシア。
本来関わり合うはずのない関係性の二人。
だがしかし、その瞳に宿る蒼色だけが、確かな血の繋がりを示していた。
「何を馬鹿な! 偶然にも似た色合いの眼をしているからといってそれが何の証拠になる!」
そこに、なお認められぬと白騎士カイナスは異議を唱えた。
「まあ、そこの白騎士の言うことももっともよな。妾もあの胡散臭い賢者の
「んな気軽に言うな、この眼はそんな便利なモノじゃねえ。分かるのは相手の職とレベル、そして…………」
「相手が次に必要とする経験、であろう? ふむ、確かにそこの少年と私の瞳は同質のもののようだな」
ルシアの言葉を遮り、グシャは一足先に一人だけで納得をしていた。
「も、もし本当に王の言葉通りだとしても、だからといって王の直接の血縁のわけがないではないですか? よしんばありえたとしても、王から遠く離れた血筋が偶然芽吹いただけでは」
白騎士カイナスはその瞳に動揺を隠せないまま賢王になお否定を求めていた。
「ふむ、お前にそうまで強く語られると、私も自身を省みたくもなる。カイナスよ、お前には私がそれほど潔癖な男に見えたか?」
「い、いえ、ですが! 私の知る限り、いえ、国中の誰一人として、王の身近に女性がいたと知る者はおりません」
「ほう? 女性の影すら見えぬ王など迷惑この上ない。血縁に頼る治世である以上、子種を残さぬ王など愚物以外の何者でもないじゃろ」
グシャに女性の交友関係がないと聞いて、アルトは侮蔑を込めてそう口にした。
「お前たちも随分と好きに言ってくれる。だが、確かにカイナスの言葉の通りだ。私は人間の女と関係をもったことは一度もない」
「
賢王グシャの言葉は、ある一つの肯定を意味していた。
「だがそうか、まさかこのような目が出ているとはな。…………知らなかった、いや知ろうとしなかったのか? まあ、どうでもいい。それで、魔人の少年。どうやら私はお前の血縁上の何からしい。その上で、何か望みがあってここに来たのか?」
ここまでの会話で自身とルシアとの関係を概ね把握した上で、賢王グシャの蒼い瞳はなおもお前に興味がないと告げていた。
その瞳を受けてルシアは、
「は、ハハハハ!! チチ、オヤ? ハッ、笑わせる、ああ笑いが止まらない!! そうか、オレにもいたのか、そんなモノが。望み? ああ、あるぜ。ずっと昔から思ってたんだ。こんな、こんな不出来なオレを世界に産み落としたヤツ、そんなモノがまだ生きているのなら、この手で殺してやるってなっ!!」
哄笑を上げながら、魔銃の銃口をグシャに向け、迷うことなく引き金を引いた。
弾ける炸裂音。
そして鋼に衝突して跳弾する音。
「そうか、実に殺意に満ちた一発であった、魔人の少年」
賢王グシャはごく当然のようにルシアの魔弾を手にした王剣グロリアスにて弾いていた。
「それで、気は済んだか? であれば帰るがいい。私も流石に疲れた、キサマのような
ルシアのことなど心底どうでもいいと、溜め息をつきながらグシャは再び玉座に戻ろうとする。
「些事、だぁ? ふざけるなよ人の王。テメエはテメエが生み落としたゴミに殺されるんだよ!!」
魔銃ブラックスミスを構えながら、もう片方の手で魔聖剣オルタグラムを抜くルシア。
彼は顔を言いようのない怒りで引き攣らせながらも、一歩一歩グシャのもとへと足を進めていく。
「まったく、一度火が着くと止まらぬか。まあよい、それも織り込み済みでここまで来たのじゃからな。妾は手を出さぬゆえ、好きにするがいい」
狂気すら纏い始めたルシアを、アルトは入り口の扉の前で頬杖をついて座り込み、詰まらなさそうに見つめている。
「賢王の御前にてこれ以上の凶行を許すことなどできない。少年よ、あと一歩でも進むようならこの聖剣フリージアにてキサマを断つ。半分が魔族であるというのなら聖剣の一撃に耐えられる道理もあるまい」
迷うことなく進むルシアに対して、白騎士カイナスは当然のように立ちはだかる。
だが、
「不要であるカイナス。そこの男が私の障害であるというのならお前の行動は当然のものだ。だが、私が認識できないほどに矮小な存在に対してお前が出るほど無駄なこともない」
賢王グシャはその言葉にてカイナスを止めてしまう。
「は、矮小だと!? ああそれで結構だ、そんなモノに殺されるお前はさぞや惨めだろうからな!」
ルシアはグシャの言葉を挑発と捉えた上で自身を抑えることなく駆けだした。
彼は魔聖剣オルタグラムを大きく振りかぶり、同時に火、雷、氷の3発の魔弾を賢王グシャに向けて撃ちこんだ。
「酷い、ものだ。まるでモザイクを相手にしているかのように視界が眩む。認識に値しない認識などくだらない。そしてそれでもなお……」
振り切られる王剣グロリアスの三連斬。
ルシアの魔弾はその全てが斬り払われ、そのムリな挙動に自身の筋繊維が断裂する音をグシャは自分の耳で聞いた。
そう、賢王グシャはイリアたちにさえ見せなかった自分の限界の先を、目の前の少年に叩きつけようとしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます