第204話 魂の輪廻
時は流れ続ける。
運命は廻り続ける。
思い上がった僕を、世界を歩くことしか能のない愚かな賢者を嗤うかのように。
僕は歩き続けた。
僕は足掻き続けた。
それが傲慢な考えだということは知っている。
だがそれがどうした?
僕はもともと傲慢で、どうしようもないロクデナシだ。
それが分かっているのなら、今さら足を止める必要がどこにあるだろう。
だから僕は歩き続けて、だから僕は何でもやってきた。
そう、何でも、やってきてしまった。
「リノン、どうしたの? 珍しくボーとしてるよ」
ほんの少し、うたた寝をしていた僕の顔を覗き込む一人の美少女。
白銀の美しい髪に同じ色をした宝石のような瞳、──そしてそれらを除けばかつての彼女と瓜二つの少女、イリア・キャンバス。
間違いなく、あの子の転生した姿。
転生してもなお、いや転生をする前以上の過酷な運命を歩もうとしている少女。
ああここに、僕が目を背けられない罪がある。
聖剣の担い手に選ばれた少女。
魔を拒絶する勇者の肉体に作り上げられた彼女。
何故、どうして、イリアなのか。
ただの人としての幸せが、普通の女の子としての人生が、どうして彼女にはこんなにも遠いのか。
自分を殺し、魔族を殺し続けた彼女に待つのは与えられた栄誉以上に過酷な死への旅路。
変えられるものなら変えてみせる。
僕の全ての権能を使い尽くしてでもその運命を書き換えよう。
だが足りない。
僕の、いや僕らの力をもって最善手を選び続けてもなおイリアの幸せな死には届かない。
だから、
「おい、まだ呆けてるのか大賢者。そろそろ出立だろうが。あまりイリアを困らせるなよ」
彼の声、魔王アゼル・ヴァーミリオンの声が僕の意識を雑に現実へと引っ張りあげる。
ああ、そうとも。
イリアの代わりにキミに困ってもらわないと。
僕らだけでは足りない一手。
まともな手段では辿り着けないイリアのハッピーエンドのために、いくらでもキミを使わせてもらおう。
愚かさにはさらなる愚行をもって塗りつぶしていくのが僕の流儀だ。
かつて僕を賢者だと信じた少女の想いが、今も僕を突き動かす。
止まりかけた心に、人間としての熱を与えてくれている。
僕の唯一自覚する罪。
それを備忘録から消し去っても良いと思える日まで、僕は世界を欺き続けてみせる。
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