第188話 アゼルの気持ち

 俺にとって、イリアとは何だ?



 考えたこともなかった。


 考える必要もなかった。


 だって、魔王にとっての勇者だ、そんなのは最大の敵でしかない。


 そう、敵でしかなかったはずなんだ。



 いつからだろう。


 いつから、あいつは、イリアは俺の敵ではなくなった?


 気がつけばイリアはこんなにも俺の側にいる。


 瞼を閉じれば、こんなにも鮮明にあいつの姿が思い浮かぶ。


 幼く屈託のない笑顔を見せるイリア。


 むくれてしかめっつらを俺に見せるイリア。


 誰よりも真剣に、いつも誰かを守ろうとするイリア。


 奇しくも、俺はいろんなイリアを見てきた。彼女がひとりの少女として成長する過程を、物理的にも、精神的にも。


 そんな少女は、その少女は、一体俺にとって何だと言えばいいのだろう。



 俺を守ると言った少女。


 俺が守ると思った少女。


 俺の弱さと無様さを知った上で、俺の手を握ったイリア。


 ああ、


 ああ、なんて愛おしい。




 だが、俺にはそんなことを口にする資格はない。


 そんなことを口にする資格はないのだ。


 

 だから、



 なのに、



 どうして俺は、イリアの側にいたいと思ってしまうんだろう。



 お願いだ。


 お願いだ。


 神がいるのなら見逃して欲しい。



 俺は、それでも、イリアの側で明日を願い続けたい。

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