第173話 再会
聖刀の街ホーグロン。多くの店が立ち並ぶ商店街のはずれにあるクロムの店。
無骨な作りで人の寄り付かなそうなその店に、今日は珍しく客が来ていた。
客はふくよかな体形の女性で、その身なりからするとそれなりの上流階級にいる貴婦人のようだった。
「こちらの商品をお買い上げですね。ありがとうございます」
そこでは赤髪の少年ユリウスがキビキビとお客に対応をしていた。
「あらあらご丁寧にどうも。クロムさん、いつからこんな可愛らしい店員さんを雇ったの?」
「……知り合いの子供を預かってるだけだよ。まあ、
大柄で筋骨隆々の店主クロムは店番の椅子に座って気恥ずかしげにそっぽを向きながら答える。
「もう、愛想がない自覚があるなら少しは直したらいいのに。そんなことだから私みたいな物好きしかこの店に来ないんじゃない」
この店の常連なのか、女性は上品ながらも気さくな態度でクロムと会話をしていた。
「はん、悪かったなあ。アンタもこんなチンケな店に旦那の金をつぎ込み過ぎるなよ」
「あら、ここで買った物は夫にも受けがいいのよ。むしろここの品はどれも安すぎるくらいですもの。一度誰か商いの専門の方を招いてみたら?」
「結構だよ。
「そうなの? もったいないわね。それなら私はこの子
婦人はクロムの後ろにこっそりと隠れている青髪の少女カタリナにも手を振る。
「……う、ま、また」
カタリナは戸惑いながらも愛らしい手だけをクロムの影から出して店を出ていく婦人を見送った。
「────ふう、もうカタリナ、ちゃんと挨拶しないとダメだろ?」
やや呆れたため息をつきながらユリウスはカタリナに注意する。
「まあいいじゃねえかユリウス。カタリナは人見知り、っていうか人間が苦手なんだ。お前だって無理して接客する必要はねえんだぞ」
「あのですねえクロムさん、そりゃクロムさんの接客の様子を見てたら誰だって代わりたくなりますよ。『おう』『ああ』『勝手に持ってけ』だけで済ませる接客なんてしてたら、そのうちお客さんなんてこなくなりますよ」
「…………おう、よく見てるなユリウス。カタリナ、
「うん? そんなことないよクロムさん。私がお客さんだったら二度と来ないレベルってだけだよ」
カタリナはニコニコとした笑顔でクロムにトドメを刺す。
「!? そんなにか」
そして地味に落ち込むクロム。
「ウソウソ、大丈夫クロムさん。私はクロムさんのお店だったらちゃんと買いに来るから」
よしよしとカタリナはクロムの頭をなでる。
「こらカタリナ、クロムさんを甘やかそうとするな。カタリナも今度お客さんが来たらせめて普通に挨拶くらいはしなよ」
「は~い」
ユリウスの忠言に対して気のない返事のカタリナ。
「まあ、ユリウスが色々仕切ってくれて助かるけどよ、常連じゃない客が来たときは後ろに下がってていいからな。万が一にでも魔族とバレた時はお前たちが危ないからな」
先ほどまでと一転して真剣な口調でクロムは言う。
「……わかりました。でもだからってクロムさんが無茶しないでくださいね。いざとなったら僕だって戦えるんですから」
「─────ああ、そうだな」
クロムは静かにユリウスの言葉に答える。そこには、もしその時が来たとしても最後まで彼らを守り通すという覚悟が込められていた。
そして、また店の扉が開いて来客の鐘が鳴る。
「! いらっしゃいませ!」
反射的に挨拶をするユリウス。その視線の先には、
「あれ? ユリウスじゃん。店番してんの?」
黒金のローブを羽織った最強の魔法使いエミル・ハルカゼがいた。
「ひっ、エ、エミルさん!? お、お久しぶりです!」
驚きと同時に深く頭を下げるユリウス。
「久しぶり~、ってそんなに脅えないでよ。アタシそんなに怖がらせるようなことしたかな~」
そのような記憶は何も思い当たらないと唸りながらエミルは店内に入る。続けて、
「クロムさんお久しぶりです」
「おうクロム、久しぶりだな」
イリアとアゼルが手を繋ぎながら入ってきた。
「ん? お前らは誰だ?」
二人の顔に見覚えがないような表情のクロム。
「俺だよ俺」
「ああ、魔王と勇者か。またお前たちは背格好が変わったもんだから分からんかったぞ。どこのマセガキのカップルが冷やかしにきたのかと思ったわ」
「ちょっと、マセガキだなんてひどいじゃないですかクロムさん」
む~っとイリアは頬を膨らませる。
「違うわイリア、そこじゃなくてカップルの方を否定するのよ」
慌てて入るアミスアテナのツッコミ。
そして遅れるように、
「……失礼するでござる」
申し訳なさそうに店に入ってくる一人の影が。
「ちょっと~、違うでしょシロナ、ここはアンタの家なんだから」
そこへ鋭く入るエミルの注意。
「ん、そうであったな。あ、
恥ずかしげに、懐かしげに、しかしその瞳はしっかりとクロムを見つめて、長い放浪を経て白亜の人形剣士シロナが自分の家に帰って来た。
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