第159話 カラフル

 ずっと、憧れていた景色がある。


 自身を魔王として閉じ込めていた世界から飛び出した俺は、その憧れた景色をただの紙の中に描き始めた。

 何枚も、何枚も、何枚も、


 きっと俺を知る誰もが、そんな魔王の様子を知れば肩を落として落胆するだろう。


 だが、俺にはただそれだけが、自分自身に残された人生だった。


 俺の人生は、ずっと昔に詰んでいた。


 もはや何をしようと、残された時間はそう長くない。


 ただ、俺一人が犠牲になるか、その他大勢とともに絶望を味わうかの二択しかない。

 

 だから、せめてどうしようもなくなるその時までは、この世界をひたすらに描き続けていたかった。


 …………もしも、本当にそれが叶うのなら、世界を巡って絵を描き続けることだって、してみたかった。


 

 まあそれも、一人の勇者の到来で終わりを告げたわけだが。



 だが、それがどういうわけか、その勇者が自分を守ろうとしている。


 いや、そうじゃない。


 彼女は俺のこれまでと、俺のこれからに価値を認めた上で、その道のり人生を守ろうとしてくれている。


 自分の幸せさえ、どこにあるのかもわかっていないであろう少女が。



 彼女は俺を「弱い人」だと言った。


 誰も、そんなことを言ってはくれなかった。


 幼くして魔王となった俺の「弱さ」を認めてくれるやつなど一人もいなかった。



 俺を、どこにでもいる一人の弱者とした上で、それでも俺を守るとイリアは言った。



 ああ、何故、


 ああ、どうして、


 こんなにも涙が止まらないのか。



 国を飛び出しても、絵を描くことに逃げ込んでも、ずっと変わることのなかった俺の中のモノクロの世界。


 今その世界に、血に染まりながらも彼女が彩りを与えてくれる。


 自分自身勇者としてのこれまでに、大きく背を向けることとなると知りながら。



 ああ、なら立ち上がらないと嘘だ。


 例え相手が強くても、一歩踏み外した先にある死が怖くても、俺はイリアと一緒に色彩にあふれた明日が見てみたい。

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