第150話 人形殺し

「ちょっとちょっと! 私の鎧とレア効果に、何してくれるのこの人形くんは!!」


「─────────────」

 眼前で突然下着姿になったラクスを前に、思わずアゼルは固まってしまう。

 

 そして当の彼女は大剣から手を離して、ふくよかな胸部と下半身を両手で隠して頬を赤く染めている。

 その様子を見て、シロナは、

「ふむ、随分と動きが鈍ったでござるな。『楓三連』」

 無防備なラクスに容赦なく聖刀の三連撃をお見舞いした。


「きゃっ」

 可愛らしい声をあげて、吹き飛ばされるラクス。


「いやいや、シロナ。お前はオニか!」

 あまりのシロナの非道ぶりに思わず突っ込むアゼル。


「相手の防御能力を下げるために鎧を外したが、思いのほか効果的であった。……そうだな、その薄い布きれも斬り落とせば、もっと動きが鈍りそうでござるな」

 シロナはラクスの下着を見据えてそう言った。


「き、鬼畜だ」

 モラルなど知らないといった戦闘人形の冷徹ぶりにアゼルも冷や汗を流す。


「ちょっと~、これ以上辱めを受けたらお嫁に行けなくなっちゃうでしょ。もう、スペアスペア」

 吹き飛ばされたラクスはシロナの鬼畜発言を聞いて、慌てて『ふくろ』の中をまさぐった。

 そして、何かをつかみ取ったかと思った次の瞬間、謎の光のあとに別の鎧を装着した彼女の姿があった。


「何という早着替え、お見事でござる」


「いやいや、今のは早着替えとかそういうレベルか?」


「もう、恥ずかしかった! ちょっとやめてよね私の装備だいなしにするの。結構ひとつひとつ思い入れがあるんだから」

 ラクスはぷんすかとシロナに怒る。


「あいにくと、道具に対する憐憫は持ち合わせていない。武器も防具も所詮は道具、正しく使われ正しく壊れればそれで本望でござる。ゆえに、その鎧も武器も何度だろうと切り崩させてもらう。それで仲間が守れるならどんな非難も受ける覚悟はある」

 再び聖刀を抜き、シロナはアゼルとイリアを守るように前に立つ。


「アゼル、エミルが目を覚ますにはもう少し時間がかかりそうでござる。ゆえに、今しばらくは拙者が時間を稼ぐ」


「あら、そう。人形くんがそのつもりなら私も考えがあるわ。私もいい歳して人形遊びはどうかと思ったんだけどね」

 手元に武器のないラクスは再び『ふくろ』の中に手を入れ、そこから異形の剣を取り出した。


「!? 何だアレは、剣なのか?」

 アゼルは困惑の声をあげる。

 ラクスの手にしたそれは剣と呼ぶにはあまりにも歪な形をしていた。まるでそれは、人の命ではなく操り人形の糸を断ち切るかのような。


「ん、多分剣なんじゃない? そうカテゴライズされてるし。名前も鑑別してないからよくわかんないんだよね。ただ……」


「説明も講釈も無用でござる。英雄ラクス、貴殿が何度武具防具を取り出そうとその全てを拙者が切り伏せる」

 新たな武器を取り出したラクスに対し、問答無用とシロナは再び彼女の鎧を斬りにいく。


 それを、ラクスは避けなかった。


「──ああ、この鎧はいいよ、いくつかダブってるし。─────その代わり、君の命を貰うね」

 交錯する二人。


 あえて自身の剣撃を受けようとするラクスに違和感を感じたシロナは、回避を優先しながらもすれ違いざまに彼女の鎧の一部を斬り落とす。

 ラクスの反対側へと切り抜けたシロナはすぐに反転して彼女と向かいあう。

 彼の右腕には微かな傷ができていた。


 しかしその程度なら支障はないと、再びシロナが踏み込もうとしたその時、


「────!?」

 シロナは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「お、おい。シロナ、どうした!?」

 シロナはアゼルの声が聞こえていないのか、ピクリとも動かない。


「え、なんで? シロナ、シロナ?」

 今の光景を呆然と見ていたイリアは、嫌な予感を押さえつけてシロナの名前を呼び続ける。


「──無駄だよ、もう動かない。この剣の名前は知らないけど、効果ははっきりしてる。『人形殺し』、それがこの剣の能力。相手の強さに関わらず人形系の敵を破壊する。つまりね、その人形くんはもう


 無慈悲で冷たい、ラクスの声音が響いた。

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