第145話 魔王退治
英雄ラクスに魔王と勇者の正体がバレた翌日、イリアたちは彼女に呼び出された。
「あ、やっと来た。良かった~、すっぽかされなくて。わざわざ追いかけて殺すなんてカッコ悪いし、何よりめんどくさいからね」
ラクスはニコニコとしながら確かな殺意を表明する。
「ふん、こちらとしてもめんどくさい用件をさっさと済ませにきただけだ。それにしてもずいぶんな待ち合わせ場所だな」
アゼルは落ち着いた声で、今の足場を見渡した。
「そう? 大きいし目立つし、何より間違えないでしょ。待ち合わせのスポットとしては最高だと思うけどね」
ラクスは今、大境界の真ん中、白骨化した巨大なドラゴンの頭の部分にあぐらをかいて座っている。
「それに、あなたたちもその方が都合いいでしょ。ここなら誰の迷惑にもならずに力が奮えるよ」
ニヤリと八重歯を光らせて彼女は立ち上がった。
「気遣いどうも。ま、英雄ラクスとやれるんなら別にアタシは周りへの迷惑とか気にしないけどね」
エミルは堂々と胸を張ってラクスに言いきる。
「……いや、エミルちゃん。少しはそのあたり気にしようよ。だから『歩く災害』なんて言われちゃうんだよ」
呆れた声を出すラクス。
「ちょっとエミル、少しのあいだ静かにしてなさい。こっちが常識度で負けてると話がしづらいでしょ。……ねえ、英雄ラクス、少しいいかしら?」
イリアの聖剣、アミスアテナが言葉を発する。
「え、もしかしてその剣が喋ってる? うーん勇者の持ち物は凄いなあ。ま、私はいらないけど」
「いいから話を聞きなさいよ。もう、エミルと一緒で自由人系は話がしにくいわね。いい、あなたはこの魔王を殺すつもりなんでしょ?」
「そうだね。殺すよ」
アミスアテナの確認にラクスは迷わずにうなずく。
「そう、でもそれは必要ないわ。今この魔王は私の封印下にあるの。勇者と聖剣がその名のもとに魔王を封印している以上、あなたの手出しは不要よ」
彼女はそう言って、交渉でこの場を切り抜けようとする。
「ふ~ん、そうなんだ。で、なんで封印してるの? そこの魔王は私の目から見てピンピンしてるし、そもそも殺しきってしまえば封印も何も必要ないでしょ」
ラクスも正論を投げ返す。
「それは無理ね。この封印をするにあたって魔王を完全に滅するのは難しくなってしまったから。今あなたが見ている魔王はある意味で幻影。いくらダメージを与えたところで、私の中に魔王の魂が封印されている以上、何度でも復活するわ」
「何それ、それじゃ魔王を封印してるのか、魔王を
自信に満ちた声でラクスは言い切る。
「それは無理ですラクスさん。魔王、アゼルは魔族に絶対的に有利であるはずの
イリアも自身の力への自負をもってラクスに向き合った。
「あれイリアちゃん、というよりも勇者ちゃんか。もしかして私の力を舐めてるのかな。ま、あなたたちに実際見せたこともないから仕方ないか。──それじゃまずこうしようか、私の力をあなたたちに示す。それで文句なければ魔王の封印を解いてくれていいでしょ?」
「まあ、落としどころとしては妥当かしら。でもイリアと魔王は戦っちゃだめよ。あなたたちがその状態で戦えばまた封印が緩みかねないし本末転倒だわ」
「おいおい、それじゃどうすんだよ」
「何を言ってるの。その時のためにイリアの仲間を集めたんじゃない。シロナ、エミル、お願いするわ」
「了解したでござる」
聖刀の柄に手を添えてシロナが一歩前に踏み出す。
「ま、アミスアテナの言葉に従うのは
エミルも闘気をその身に滾らせて前に出る。
「ん、エミルちゃんと人形くんがお相手?」
鋭く光るラクスの眼光。
「へえ、シロナがオートマタだって気づいてたんだ」
「一応初見でわかったよ。昔オートマタとはちょっと因縁があったものだから。それじゃあ君たちが
二人を取るに足りない相手とあなどるラクス。
それに対し、
「そうだな、拙者たちは確かに前座でござる。──だが、」
「この前座は、とんでもなく強いよラクス。さあ、アンタを前座に負けた笑い者にしてあげる!」
勇者の力強い仲間が堂々と立ち塞がった。
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