第137話 モノクローム
ずっと、この目に焼き付いている景色がある。
鮮やかな緑の地平、その奥に広がる青き海原。深い森とその中央で煌めく大きな湖。馬鹿馬鹿しいほどに巨大な塔に、人間たちの営みを内包する国や町村。
思えば俺は、200年に渡る今までの人生のほとんどを浮遊城ジークロンドの天守からそんな景色を見渡すことに費やしていた。
魔王アゼル・ヴァーミリオンは人間たちの敵として彼らとの戦いの日々に明け暮れたが、それも長い目で見ればただひたすらに彼らの世界を眺めている時間の方が多かった。
なんて、なんて弱くて儚い生き物たち。
わざわざこんな戦場に出てこなくとも、お前たちはほんの瞬きの間に老いて朽ちてゆくというのに。
魔王たる自分が本気で彼らを攻め立てれば、一年と保たずに彼らは滅亡するだろう。本当はたったそれだけで、こんな空虚な日々は終わるはずだった。
だが、それは父の言葉が許さない。
いや、今の王は俺なのだから、許すも許さないもなく自身で全てを決めてよいのだが、父がくれた数少ない俺に向けての言葉は、俺にとっては宝物で、それを裏切ることなどできなかっただけなのだ。
それで結局俺は彼らの世界を眺め続ける。
彼らの世界がこの目に焼き付いていく。
モノクロで満たされた我らの世界から、色彩に満ち溢れる彼らの世界を。
そう、だから、
俺はいつかあの世界を─────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます