第124話 最後の仲間
「さーてと、アゼルとのキスもしたしシロナは正式にイリアの仲間になったってことでいいんだよね?」
改めてエミルはシロナに確認をとる。
「馬鹿エミル、それを蒸し返すな。その記憶を頼むから俺に思い出させるな」
「まあまあアゼル落ち着いて。それにどうしたんですかエミルさん。さっきシロナは返事してくれましたけど」
「いいのいいの、大事なことだから。さあシロナ、リピート・アフタ・ミー『拙者はイリアの正式な仲間になりました』さん、はい!」
「?? 拙者はイリアの正式な仲間になった。これでいいでござるか?」
頭に疑問符を浮かべながらシロナは復唱する。
「はい、いいよ。───────さて、イリア。何か変わったことはない?」
「え、変わったことですか? とくに何もないですけど」
エミルの意図が分からずにイリアはポカンとしている。
「そう? 前のパーティー、アタシとシロナ、そしてもう一人は誰だった?」
「以前のパーティーですか? それはエミルさんとシロナと、……リノン。────あ、リノンだ! どうしてリノンのこと忘れてたんだろ?」
イリアは忘れるはずのないことに今さら気づいたと混乱する。
「あー、やっぱり仲間がキーだったか。多分それは忘れたんじゃなくて、アイツに対して意識を向けられないようにされてただけだよ。イリアがアタシとシロナを仲間にすることを条件に解除されるようにしてあったんだ」
「何だソレ? そんなことできるのか?」
アゼルもエミルの言っていることが分からずに聞き返す。
「できる奴がいるの。リノン・W・W、胡散臭くて信用ならない大賢者がね」
エミルが珍しく苦々しげな表情をしながらそう言う。
「やられた〰️、どうしてリノンそんなことしたんだろ! アミスアテナは気づいてた?」
「……ノーコメント」
「あ、信用ならないのがここにももう一人いた」
カチンときたイリアはアミスアテナの切っ先で地面に延々と8の字を書き続ける。
「ちょっとイリア止めてー。由緒正しい聖剣でそんなことしないで~。ガタガタするんだから〰️」
「イリア、俺が許す。続行だ」
「了解」
イリアはアミスアテナの反応が面白かったのか、彼女の気が済むまでこの遊びは続いた。
「─────ハア、ハア、ハア。あんたたち覚えてなさいよ。いつかバチが当たるんだからね」
ひとまず地面に突き立てられて、ようやくイリアの遊びから解放されたアミスアテナは息も絶え絶えな様子でそう言った。
「秘密の多いアミスアテナがいけないんですー」
イリアは相棒の聖剣に向けて口をイーとする。
「まったくだ、バチを当てられるモノなら当てて見ろってな」
アゼルはアゼルで丁寧にフラグを建てていく。
「そう、それじゃ魔王様にはさっそく封印の憂き目にあって貰おうかしら」
「またそれかよ。イチイチ能力が制限されるのは面倒くさいんだが」
アゼルは非常に嫌そうな顔で抗議の意を示す。
「あのねぇ、むしろ今の状態が特例的な措置だってこと忘れないでよね。まあいいわよ、今回はシロナもいるし、力ずくも悪くないかもね」
アミスアテナはウフフと、まるで悪役のように笑っている。
「この極悪聖剣が。────というか、イリアとエミルとシロナを同時に敵に回して勝つビジョンがまったく見えない。……ウチの軍が敗退するわけだ」
アゼルはいつの間にか
「──それじゃあ封印ってことでいいんですか、アゼル?」
そんなアゼルにイリアは申し訳なさそうに歩み寄った。
「……ああ、別にお前が悪いわけじゃないんだから、そんな顔するな」
アゼルは諦めたようにイリアと向き合った。
そこで、イリアはアゼルの唇を見て、
「…………あの、アゼル?」
「何だ?」
イリアは真面目な表情で、
「気になってたんですけど、唇の感触って人によって違うんですか? アゼル、色んな人とキスしてるから。」
実に素朴な質問をした。
「人聞きが悪すぎる! どこのプレイボーイだよソイツは、俺のは全部不可抗力だっての」
まくし立てて否定するアゼルに、イリアは怒られたと思ったのか少しショボくれ、
「だって、私、アゼルの唇しか知らないから」
と、呟いた。
「────!!」
それを聞いたアゼルは瞬間沸騰したように顔が真っ赤になる。
その様子を傍から見ていたエミルたちは、
「──ねえ、アミスアテナ」
「ええ。今イリア、魔王を殺しにいったわね」
「?? 今のは魔王を殺りにいった一手でござるか? さすが
などと好き勝手言っていた。
「アゼル、どうしたんですか? 顔が真っ赤ですよ」
イリアは心配そうにアゼルの顔に近づく。
必然、イリアの瑞々しい唇もよく見えるようになる。
「──バッ、馬鹿やろ、別に何でもない。お前もくだらんことを気にするな。ったく、するならさっさとするぞ」
アゼルは得体の知れない気恥ずかしさを誤魔化してイリアを促す。
「?? わかりました。はい、アゼル。いいですよ」
そう言ってイリアは瞳を閉じて唇をそっと突き出す。
(!? 何してんだコイツ。あ、そういえばこないだキスする時は恥ずかしいからって話したな。いや、断じてキスではないが)
アゼルは自身に言い聞かせながらイリアの両肩を優しく掴み、───────自分らを見つめる複数の視線に気づく。
「「「ジ~~~」」」
(アイツら、黙ってこっちを見やがって。見世物じゃないぞコラ。少しは気を遣え!)
アゼルの心の声が伝わるわけもなく、三人の視線の圧力は続く。
「? アゼル?」
いつまでもたっても来ないアゼルをいぶかしんでイリアが目を開きかけたとき、
「──んっ」
アゼルは勢い良くイリアの唇を奪った。
それと同時に神々しい光が二人を包み込む。
「いや~、何度見ても良くわからん封印のシステムだよね。アミスアテナ、何でこんな方法にしたの? 趣味?」
「私がこのやり方決めたわけじゃないわよ。そう教えてもらったんだから仕方ないじゃない。まあ、見てて楽しいのは否定しないけど」
「してエミル、あれは仲間の証でないなら、何の証でござるか?」
「え~、それをアタシに言わせる? 恥ずかしいなぁシロナは。あ、封印終わったっぽい、ってアラ?」
光が収束した時に現れたのはエミルの想像とは少し違う姿だった。
アゼルは5、6歳の幼児から10歳前後の少年へと変化を遂げていた。
「お、また少し成長したな。まあこれを成長というのもおかしな話だが」
自分の手足や視線の変化を見て、アゼルも自身の成長を実感していた。
「へえ、こんな風に変わってくんだ。…………でもイリアは何も変化なくない?」
エミルはイリアに視線を向け直す。
彼女の言う通り、イリアは前回の姿とほとんど変わりない。
しいて言うなら12歳の少女が13歳に成長したといったところだろうか。
「何を言うんですかエミルさん。ほら胸が、胸が少し膨らんできてるじゃないですか!」
イリアは自身の胸を押さえながら感激に浸っていた。
「ん、ん~? ごめんイリア、アタシにはミリ単位のバストの変化は認識できない。って、アミスアテナは何黙ってんの?」
「───────────────あ。また封印が緩んだ~」
響くアミスアテナの嘆き声。
「ああ、これって封印が緩くなった影響でこうなってんだ。良かったじゃんイリアにアゼル。このままチュパチュパしてたらすぐに封印解けるんじゃない?」
エミルからの衝撃的な提案。
「いや待て、それは倫理的にどうなんだ?」
さすがのアゼルもその提案には消極的だった。
「そうよ、ちょっと止めてよねそんな恐ろしい事言うの。いい、これからはそう簡単に解除なんて許さないからね。その為にシロナとエミルを仲間にしたんだし」
アミスアテナは絶対の意思をもってそう告げる。
「あ、そう言えばそういう趣旨で仲間集めしてたんだったね。私すっかり忘れてた」
「ちょっとイリア~、大事なこと忘れないでよ」
「でもどうだろ。今の私たちレベルはどのくらい戻ったかな。前回がレベル10くらいだったから、今ならレベル20? アゼルはどう────」
イリアはアゼルに話しを振ろうとしたところで固まる。彼女はアゼルの容姿を改めてつぶさに見ていた。
「ん? まあだいたいイリアの予測であってんじゃねえのか。────おいどうした?」
アゼルは幼い男の子といった容姿から、少年の姿へと成長を遂げている。
以前の愛くるしさあふれる姿もイリアの琴線に触れたが、今回はどうだろう。
やや丸みを帯びていた手足がスラリと伸び、身長も伸びたことでイリアとの目線が近くなった。それによりその顔立ちもよく目に入る。瞳はキリリと、そして頬はややシャープになり、愛らしさから凛々しさへのシフトチェンジを遂げている。声付きも幼児特有の高い声から少しだけ低くなり、蛹から蝶へと羽化する直前の可能性の光を予感させる。ツンと跳ねた黒髪は以前のまま、それを片手で搔く様はアゼルの元々の斜に構えた態度も相まって得も言われぬ雰囲気を醸し出していた。
そう、つまりは、────────イリアに刺さった。
「アゼルーーー!!!」
イリアは今までの会話など無視して少年アゼルに抱き着いた。
「は!? イリアどうしたなんだ!?」
アゼルは突然のことに混乱する。
「どうしたの、どうしたのアゼル? どうしてこんなにカッコ可愛いのーーー!?」
彼女はかつてないほどの全力でアゼルを抱きしめる。
「おい、苦しいイリア。いやマジで苦しい。お前の能力が上がったのも相まって二重にクルシイ。」
アゼルの訴えもどこ吹く風で、イリアはアゼル少年を抱きしめてあまつさえ頬擦りまでする始末。
以前の幼児アゼルとイリアであれば姉と弟の微笑ましさがあったが、いや今も見ようによっては姉と弟なのだが、イリアの偏執性が増したせいかやや危ない絵面になっていた。
「…………ねえアミスアテナ、イリアってもしかしてショt──」
「止めてそれ以上は言っちゃダメ。勇者がそのショ……、だなんて風聞が悪すぎるでしょ。きっとあれはそう、博愛的な何かの発露なのよ。ええ、きっとそうよ」
「なるほど、そうやって犯罪者予備軍は世に容認されていくんだ」
「うるさいわね、リアル指名手配犯」
「してエミル、あれは何の証になるでござる?」
「ん~とね、────まあ『仲良しの証』ってことでいいんじゃない?」
夜通しの長い戦いの末に朝日が差して彼らを照らす。
銀髪の美少女に襲われる少年の悲鳴は、あともう少し日が昇るまで続いた。
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