第35話 牢獄にて

「ほら、ここに入ってるんだ。君の主人が引き取りに来たら出して上げるから」


 一通りの取り調べが終わった後、イリアは聖剣や手荷物を全て没収されて、広い牢屋の中へと入れられた。


 イリアは取り調べ中も「知らない、分からない」の一点張りであったが、手首のタグの番号により誰の管理下にあるべきかは既に判明してしまっている。


「おい、何だその子は? その子が何をしたかは知らないがよりによってに入れなくたっていいだろう」


 イリアが牢に入れられたタイミングで別の衛兵の男から声がかかる。鼻の下に髭を蓄えた、優しそうな風貌の衛兵だ。

 


「ああ、主人とはぐれて迷子になってた奴隷の子でな。どうも他所から来たみたいで、この国のルールが分からずに市民とトラブルになっていたので連行してきた次第だ」


「今のとこ使える牢も一杯だからな。別にでも構わないだろう? どうせすぐに空きになるんだ。それに少しは怖い思いをした方が、おイタした子供にはいいお灸になるだろ。この子の主人は今からでも探しにいくさ」


 意味深な言葉を混ぜながらイリアを連れてきた衛兵は同僚に説明する。


「はあ、まったくお前は子供にも厳しいな。せめて自分の子供くらいには優しくしとけよ。じゃないといつか後悔するぞ。……それはともかく、今日はこれから例の件で人手が足りないんだからその子供の主人探しは後回しにしてくれ」



「おっともうそんな時間か。ま、それなら仕方がない。それじゃ俺も現場の応援に回ってくるよ」


 そう言ってイリアを連行してきた男は腕を回しながら去っていく。


 すると、もう一人の髭の男も足早に去っていき、しばらくすると牢に戻ってきた。



「はい、お嬢ちゃん。おじさんの昼ご飯なんだけど、これから忙しくてどうも食べれそうにないんだ。お嬢ちゃんをすぐにここから出すのも今日は難しいかもしれないから、お腹が空いたらそれを食べなさい。あ、あと、危ないからこの牢の奥の方へは行ってはいけないよ」


 それだけを告げてお弁当と水筒を渡すと、男はまた急ぎ足で出ていった。

 お礼を言う間もなく、置いていかれたイリアはキョトンとしてしまう。


 当たり前のように奴隷である子供にも一定の優しさを示す人たち。それが魔法使いが相手とあらば何故あそこまで残酷になれるのか。


 そんなことを一人思い悩んでいると、



「み、……水」


 牢の奥、暗く、闇と同化してしまいそうな壁の方から掠れた声が聞こえてきた。

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