第二譚:灼銀無双の魔法譚

第27話 いつかのどこか

 モノクロの世界。


 光源は少なく、調度の整った部屋の中は僅かに影を落としている。


 人によっては寒々しいと捉える者もいるだろう。


 だがこの場所は、それでも暖かさに満ちている。




「ねぇ、お母様! またあのお話の続きを読んで!」

 幼い少女が母親に物語をせがんでいる。

 その愛くるしい瞳に見つめられて、断ることができる者がいるだろうか。


「はいはい、わかりましたよー。え~と、この前の続きはどのあたりからだったかしらね?」

 ここで押し問答をしてもどうせ娘には負けてしまうと、母親はやや諦めたように本棚の方へと向かう。


「あのね、次は確か魔法使い様の話だったと思うわ。わたしね、あの魔法使い様大好きなの。わたしもいつかはあんな風になりたいの」


 キラキラとした瞳で少女は語る。

 誰にだってある、幼い頃の些細な憧れに、


「え!? …………アレに憧れるとか、この子の将来が不安になるわね」

 娘の発言が母親にとってはそんなに衝撃的だったのだろうか、思わず彼女の心の声が漏れ出てしまう。


「……まあ、あなたが誰に憧れるかは自由なんだけどね。あの何ものにも縛られない天衣無縫なところは確かに私も羨ましいわ」


「てんい、むほー?」


「自分自身に嘘をつかない、ありのままの姿で生きてるだけなのに、周りから見たらそれがすごくカッコよく完成してるってことよ。まあ、あなたにはまだ難しい言葉だったかもね」


「ううん! てんいむほー! あの魔法使い様にすごくピッタリだわ。」

 少女は気に入ったとばかりに、覚えたての言葉を繰り返す。


「うーん、気に入っちゃったか。半分は皮肉だったんだけどね。ま、いいわ。それじゃさっそく読もうかしら」


 母親は慣れた様子で本棚から一冊の分厚い本を取り出す。


「えーと、挟んだ栞は……、あった!」




 それは、挟み込まれた思い出を紐解くように、




「ある日、旅をしていた勇者と魔王は、怖い怖い奴隷の国に迷い混んでしまったのでした。」




 かつて、ある国を揺るがした大騒動が語られる。

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