第26話 どこかのいつか

「それで、それでー?」

 天真爛漫な声で、少女が物語のつづきを促す。


「ん~と、キリもいいし今日はここまでね。そろそろご飯の支度もしなくっちゃ。」

 母親は柔和な笑みで優しく少女の頬を撫でる。


「え~。もっともっとお話し聞きたい。どうして魔王様は自分をやっつけた勇者様についていくことにしたの?」

 子供ゆえの純粋な疑問。少し前までは出ることのなかった質問である。


「あら、その辺りが気になるようになったのね。んー、そうね。周りからは立派に見える魔王様にも実は悩み事があって、勇者様と一緒にいることでその答えが見つかる気がしたんじゃないかしら。」


「悩み事ってどんな?」


「それはこれからのお楽しみでしょ。続きは明日読んであげるわ。さあ、あなたも手を洗ってお母さんのお手伝いしてね。」


「はーい。」

 少女は元気に返事をして台所へと駆けていく。


 母親はその様子を微笑みながら見送り、手にしている本に視線を戻して懐かしむように本の淵を指先でなぞる。


「あの子は今日も元気ですよ。」

 そう呟くと、自身もそっと立ち上がってまだ途中の本に栞を挟んだ。


 パタン、今日も思い出の閉じる音がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る