第24話 カインの到着


「バブルマン? なんだかダッセー名前だなぁ」


「何言ってんのよ、バブルマン……海賊ヴェルテッロって言ったらかなりの大物よ!」


「だろうよ、奴とは初めて戦ったがあの野郎……俺と戦いながら仲間達を捕まえやがった!」


 思い出したのはオルカが悔しそうに顔を歪める


「ねぇ、どうでもいいけどアタシの警報アラートに誰か引っかかったわよ。そんなに大勢じゃないみたいだけど」


 マキナが展開していた警報アラートの魔法は指定範囲に何者かが侵入して来ると術者に直ぐに伝わる魔法だ。

 マキナはこれを自分達の通った経路に展開していた。


「マズいな、奴らが戻って来たかも知れない」


「まぁ、ちょっくらやっつけて帰るか」


「人質の人達を解放してからね。でも大人数で移動するのは大変ね……」


「仲間を解放してくれれば船をだせるぜ! 準備の間だけ時間稼ぎしてくれるか?」


「時間稼ぎってか、倒しちゃってもいいんだろ?」


「フンっ、ガキが。どんだけ強いか知らないがヴェルテッロと小柄な剣士には気をつけろ!」


「じゃあ、マキナとチップルはオルカと一緒に人質さん達を解放して船で待ってて、私とリオンは侵入者を確認、敵なら倒していくわ」


「あははっ、まぁ僕は戦闘じゃあ役に立たないからねぇ」


「チッ、大丈夫なのか? やっぱり俺がそっちに……」


「大丈夫よ。コレを見て」


 オルカにしてみれば年端もいかない少年少女に戦闘になるかも知れない事を任せるのは心配なのだろう、自分が行こうと提案しようとするもミリアが首元から緋色のプレートを見せる。


「緋金級!?……こんなガキがか?」


「じゃあ、行くわよ。マキナ人に来た方向だけ教えて」


「アタシ達が来た方向よ。真っ直ぐこっちに向かっているわ」


「オッケー、じゃあ早く人質さん達解放して船で待ってて!」



 二手に分かれ、リオンとミリアは来た道を慎重に戻っていくと、だんだんと人の足音と話し声が聞こえてくる。


「船長達は明日の夜にバートラム商会の会長を襲うらしいぜ!」


「マジかぁ、俺もそっちに混ざりたかったなぁ。使用人の女とか襲えんだろ?」


「バッカ! きっと警備もしっかりしてんだろーから死ぬかも知れねーんだぞ?」


「いやいや、船長とあの悪魔憑きも行くんだろ? 過剰戦力だろ?」


 相手の会話に気になる事があったミリアは形の良い眉を顰める。


「聞き捨てられないわね! 今の話し、詳しく聞かせてもらうわ!」


「あぁ!? なんだテメーは!!」


 姿を見せたミリアに対して海賊達は直ぐに臨戦態勢をとる。


「おいおい、俺より先に出て行くって……まったく短期なんだから」


 やれやれと肩を竦めてリオンも姿を見せると、素早く敵の数を数える。


「5人……しかも強そうな奴は居ない感じかな?」


「すぐに制圧して話を聞くわ!」




☆☆☆☆☆



 オルカ達は無事に人質達を解放し、船に乗り込み出航の準備をしている


「お頭ぁ、こっちの準備は終わったぜぃ。いつでも出航いけるぜぃ」


 オルカ同様に無精髭を生やした荒くれ者達がテキパキと出航の準備を整えていく。

 見た目は完全にアウトローの集団だが、船乗りとしては一流らしい。


「よし、いつでも出れるようにしておけ。2人が戻って来たら直ぐにでるぞ」


「しかし、お頭ぁ。バブルマンはどうするんですかい?」


「……一度態勢を立て直したら、今度はこっちから仕掛けてやるぞ!」


「カカッ、そうこなくっちゃな! やられたまんまってのは性に合わねーぜ!」


「リオン達が戻ってきたわ」


「よし、ヤロー供!! 船を出すぞー!!」


 マキナがいち早くリオンの姿を見つけると、オルカが錨を上げる指示を出す。


「どうだった?」


「んーただの雑魚だったなー」


「でも、情報が聞けたわ。カイン兄さんが明日こっちに来るのを知っているみたい。どこからか情報が漏れてるのね」


「どうやら明日の夜に襲撃してくるみたいだぜ?」


「ヴェルテッロの奴も来んのか? 来るんなら俺も行くぜ!」


 リオン達が話をしているとオルカが参戦を表明してくる。

 オルカとしては雪辱を晴らしたいのだろう。


「お頭ぁ、陸の上じゃあ弱くなるんですから自重して下せぇ」


「うるせぇ、弱くねぇ!! ちょっとスキルが使えなくなるだけだ!」


「お頭ぁ、それを弱くなるって言うんですぜぇ……」


「早く戻ってクライムに教えないと……オルカさん船を出して」


「あいよっと」




☆☆☆☆☆



 オルカは後で屋敷に行くと言って、ヨーカスの港でリオン達を下ろすとまた沖へと船を進めて行った。



「やぁ、おかえりミリア」


「あ、れ? カイン兄さん! 着くのは明日じゃなかったの?」


 屋敷に着いたミリア達を出迎えたのは、隻腕の美男子であり、この屋敷の主人であるカインだった。


「あぁ、ちょっと早く着いてね。どうだい進捗は?」


「まだ、積荷の行方は分からないの。それよりも明日の夜、兄さんを襲いに海賊が来るらしいわ!」


「ふむ、やはりくるか。海賊を使うとは思わなかったがな。海賊は普通海だろう?」


「やはりって……気づいてたの?」


「クライムに頼んで到着を1日遅く伝えてもらっていたんだ。……クライムがその話をした時にいた使用人の中に間者がいるだろう」


「きゃあっ」


 突如聞こえた悲鳴に一同が振り向くと、メイド服を着た黒髪の女性に同じくメイド服を着た女性が組み伏せられている。

 ただ一つ気になるのは組み伏せている黒髪の女性はこの屋敷で今まで見た事が無かったのと、着ているメイド服がやけに露出の多い煽情的な衣装だという事だろう。


「おぉ、えろい……あんなメイドさん居たっけ?」


「ハンナさん!」


 メイド服の女性に対してミリアが声を掛ける。どうやらミリアはこの女性を知っているようだった。


「旦那様、怪しい動きをしていたので捕らえましたがいかがなさいますか?」


「そうだな、とりあえず軟禁しておけ。あとで取り調べる」


「と。取り調べ……それは私もご一緒してよろしいですか?」


「ただの取り調べだ。ハンナ、お前が期待する様な事は何もない」


 やけに顔を赤らめてハァハァと上気していたハンナと呼ばれたメイドは、カインの言葉にあからさまにガッカリしている。


「あ、私は旦那様の護衛のハンナよ。ミリアちゃん久しぶり!」


「ふふっ、ハンナさん、相変わらずですね」


「護衛がなんでメイド服着てんの? しかもそんなミニスカの」


「これは旦那様の趣味よ」


「ゴホンッ!! 勝手に人の性癖を捏造するな! お前の趣味だろう」


「そうね、これは私の趣味でもあるわ」


「おおー!」


 大きな胸を堂々と張るハンナに思わずリオンは拍手を送ってしまっている。


「ちょっと変わっているけど頼りになる人よ」


 ミリアが困ったように笑いながらハンナの紹介をするのだった。



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リオンと千年迷宮 〜無能と蔑まれた冒険者は最強ユニークタレント【共有】で最凶ダンジョンを踏破する〜 素朧 @IITU

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