第4話 日向

 父いわく、物心がつく前から無愛想だったらしい。

 母いわく、あまり泣かない子供だったらしい。


「親友」

「ん……どうしたの?」

「いつにもまして機嫌がいい」

「えー……?そんな事無いよ~」

 嘘、露骨に態度に出る。


「デートの約束でもしたかい」

「まだしてないよ!?」

「いずれはするんだね」

「そ、そんな事一言も言ってないじゃん!?」

 墓穴、打てば響く。


「まぁ親友が楽しそうで何よりだ」

「……そういう大親友様は不機嫌だね」

「私の表情は昔から変わらない」

「いや表情はいつも通りだけどさー」

 適当なようで、とても目ざとい。


「……あ~」

「何さ」

「私が盗られるって心配してるんだ!」

「恋は人を馬鹿にするんだね」

「ちょっと!?」

 この女、頭がのぼせているようだ。


「ごほん……安心して、前に大親友様が言ってたように、私もずーっと友達だから!」

「えぇ……」

「え、何その反応……!?」

「暑苦しい」

「ずっと親友だって言ってたのはそっちなのにぃ」

 本当に、暑苦しいと思う。


「暑いと言えばさ」

「何」

「大親友様は暑がりだよね~って」

「寒いのは着込めば良い、暑いのは暑い」

「まぁわかるけど」

 他愛のない日常会話。


「でもアイスとか冷たい飲み物が何倍も美味しく感じる!素敵じゃない?」

「冷房効かせた部屋で食べるアイスも美味しい」

「そういう事じゃなくって~」

「すぐ溶ける」

「まぁそうだけどさ」

 気を抜くとすぐ甘いものの話をする。


「そう言えば、去年一緒に行った遊園地でさー」

「行ったね」

「うん、夏限定のスイーツ!美味しかったよねぇ」

「覚えてない」

「酷い!じゃあ今年もいこーよー」

「死にかける思いはしたくない」

 自分が行きたいからだろうに、私と行かなくたっていいものを。


「首輪つけて引きずっていってやろーかー」

「そういうプレイがお望みか」

「えー?でも大親友様は首輪似合わな……いや」

「?」

「それだけ可愛い顔してたらなにつけても似合うよねぇ」

「人を自虐の火種に使うな」

 ちゃんと、自分を磨いているくせに。


「そういえば」

「何」

「コスプレに興味は――」

「無い」

「だよねぇ」

「親友が着るなら着てやる、有料で」

「えぇー?いや、ありだな」

 意思が弱い、もう少し粘れないものか。


「お嬢ちゃん、いくらだい」

「一時間ごとに一万円」

「ぼったくりぃ!」

「端数はおまけしてあげる」

「基本料金をおまけしてほしいなぁ」

 やっぱり、察しが悪い女なんだろうか。


「そういえば」

「4回目」

「数えないでよ~」

「記憶力がいいだけ」

「知ってるけどー、いわないでー」

 記憶できる事を、忘れるわけがない。


「お腹すいたねぇ」

「さっき食べた」

「こうやって駄弁ってるとそれだけでお腹がすく……」

「肥え太る」

「言って良いことと悪いことがある!」

 少しは我慢しなさい。


「はー……」

「今度は何」

「今日はいい天気なんだろうなぁって」

「見たらわかる」

「いっつも日陰選ぶじゃん?」

「明るい所は苦手」

「日陰者~」

「物理的にもね」

 明るい場所には行きたくない。


「よーし」

「ん」

「そろそろ行こっか」

「どこに」

「どこへでも!適当に歩いてみよ」

「………」

 暑苦しいのがにこにこと笑って。



「ほら、行こう?大親友様~」

 日向が、手を伸ばす。

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遠い身体、近づいていく心 夜鷹之 @yotakano_yuri

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