第8話 うつくしの星夜
「嬢ちゃんよぉ、寿命が縮まっちまったぜ」
雑魚を蹴散らした雇い主が私の肩に腕を回して泣き真似をする。本当にコイツは口が減らない。雇い主を振り払い、神官がもう星鉱物を隠し持っていないか、入念にチェックする。
他の神官派の貴族や従僕どもは、雇い主と一緒に捕えられていた味方が縛り上げているようだ。
神殿の一つは崩したが、ここからが本番だ。信仰の篤い民と私たちのような反逆者をなるべく衝突させず、國として纏まらなければならない。未来の平穏のためにこの道を選んだ。國が立ち行かなくてはその平穏も訪れない。
崩れた神殿を背に、星の神子は夜を見上げていた。解かれた髪は荒れ、頬も汚れ、傷もいくつもある。見えないところはもっと酷いのだろう。それでも彼は星の光の下で何より美しかった。
「先ほどは助かった。ありがとう」
彼に近付き、微笑む。
「言いたいことを言っただけです」
「そうか」
それだけではないことは私が一番よく知っている。けれど、今の彼にとって大事なのはそこじゃないのだろう。
闇色の短剣に私が込めた呪い、それは短剣に最初に血を与えた二人の生死を分かち合わせる魔法だ。元は私の死に神子も道連れにするためのものだった。けれど神子は不老不死だったため、どちらも死ねなくなったというわけだ。
けれど死に際の痛みは受ける。彼はその中で声を上げ、神官に立ち向かったのだ。
「あなたを信じてよかった」
彼は自由でなかったからと、罪を逃れようとは思ってなかった。厳しい中でも考えることをやめず、贖いを祈り続けていた。だから彼の手を引いたのだ。
「私の名は
「
私はステラの前に跪き、両手でその片手に触れた。
「私はあなたのこれまでの痛みをわからない。けれど想うことはできる。終わらない悠久の中で、今までとこれからにどれだけ絶望したのだろうか」
謝ろうとするステラを首を振って止める。
「ステラ、これからは私がいる。同じ時間を生きられる。あなたの苦悩と痛み、私も貰い受けよう」
彼の瞳はこの夜で一番揺れていて、潤んでいるようだった。
「そしていつの日か、私があなたの呪いを解く。永遠を終わらせ、安らかな終わりへ向かわせる」
添えた手にしかと力を込める。
「だからそれまで、共に生きてはくれないだろうか」
瞳の星色が鮮やかに瞬いた。彼の目から涙が溢れる。立ち上がろうとする私を、今度はステラが制止した。
「貴方はそれがどう受け止められるかわかってはいないのでしょうね」
目を丸くする私に、ステラは続ける。
「喜んで、私の夜の王」
うつくしの星夜はやがて死へ向かう ナモナシのナナシ @namaenashi714
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