第72話 既に狂っている

 殺す

 殺す

 殺す

 

「死ねぇ!!」


 お前が死ね


「AAAAAAAAAAッッ!!!」


 やかましい


「グオオオオオォォォ!!!」


 さっさと消えろ


「はっ!やっぱてめぇはバケモンだったな!!てめぇの姿を見てみろよ!!」


 どこかで見覚えがあるグラサンの男の言葉に、ふと自分の姿を見る


 返り血と自分の血が混ざり合い血まみれ


「ぎゃっ!?」


 その隙を襲って来たグラサンの首をもぎ取り投げ捨てる


「・・・・・・っち!ダメだなこいつぁ。もうまともな思考してねぇな。ま、どうでもいい。ぜってぇバラしてやる!!アイツの仇は俺が取る!!」


 首が消え去り、またグラサン男が現れる


 憎悪の表情

 

 そうか

 また殺されたいんだな


「くはは!あの時よりも更に強い!!もはや、貴様にとっては勇者など敵ではなかろうな!!」


 黒ずくめで角のある人型の化け物が俺に迫りそう叫ぶ


 



 うるさい





「ごふっ・・・っ!?」


 胴体の真ん中に穴を空けてやる


「・・・こんなもので終わると思うなぁっっっっ!!!」


 そのまま手に握りしめた漆黒の大剣を横薙ぎにして来る





 だから




「ぐあっ!?」



 空いている腕を手刀にして腕を切り落とし



 パァンッ!!!


 そのまま胴体を貫いている手を引き抜き、顔面を撃ち抜いて粉々に消し飛ばす



「・・・ククク、なんという化け物だ。貴様の前では、魔王も、そこにいる竜も、人も、魔物も、全てが等しく塵芥なのだろう。だが、我らは滅びぬ!!」


 塵と化した黒い人型がまた現れる


 オレに殺される為に


「さよう。我らは滅びぬ。」


 でけぇ竜がオレに足を踏み降ろしながらそう言った


 オレは、その足を殴り飛ばす


「人あらざるその身は、我らと同じ化け物よ。人の、いやさ生き物すべからく貴様と共には居れぬだろう。」


 共にある?

 なんの事だ?


 オレはただ殺すだけ


「・・・クックック。かなり壊れて来たようだの。それもそうか。もう、数え切れぬほどの時間をこうして殺し合っているのだからな。人の心では耐えきれまい。グォッ!?」


 竜の横面を殴り飛ばす


 



 どうでも、良い




 ただ、殺す

 それだけだ










 オレには、それしかできない















「ふぇっふぇっふぇ!おお!おお!なんと恐ろしい化け物よ!鬼神の如く戦いよるのぅ?」


 耳障りな声が耳に届く


「貴様は誰からも愛されぬ、ただの命を奪う装置よ!」






 そんな事は分かっている






「ただただ殺せば良い!」





 言われるまでもない





「殺せ!殺せ!殺し尽くしてみぃ!?」


 


 

 お前も殺してやる





「誰からも愛されず」





 愛?

 そんなものは殺す事に必要ない





「縁も無く」







 縁?

 殺すことに必要ない





「みじめに」 





 当たり前だ

 殺す事しかできないから





「一人で」




 他の者など邪魔なだけだ





「世界の終わりまで」





 世界?

 世界もいずれ殺す





「狂ったように殺せぇぇぇぇ!!!」




 既に狂っている




「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!」




 自分の口から大きな叫び声が聞こえ、周囲をまとめて消し飛ばす



 黒い角の化け物も

 グラサンの男も

 でかい竜も


 周囲を埋め尽くす化け物共も 

 ちらほら見える人間も


 







 なぜだろうか?

 頬がひりつく


 手を当てると、濡れている


 なんだこれは?


 だが、どうでもいい




 オレは、ただの、殺すためだけの化け物だ






















 どれくらい戦っているのかわからない


 それは突然だった




ズバァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!




 突如、凄まじい轟音



 周囲の化け物どもが音がした方向を見る


「むぉ!?なんじゃと!?馬鹿な!?」


 あの気に入らないヤツの叫び声が聞こえる


 

 そこには女が居た


 どこか懐かしい気配

 

 そのどれもが、涙を流しながらオレを見ている


 何故だか胸が傷んだ


「はぁ・・・はぁ・・・零士!しっかりとしなさいよ!!さっさと帰るわよ!!!トチ狂ってるってんなら目を覚ましてやるから歯をしばりなさい!!」


 その中の剣を持った女が叫んだ


 レイジ? 

 誰の事だ?


「良くわからんが隙だらけだ!!」


 黒い角の化け物がオレに迫る


 まだ殺されたいのか

 なら望み通りに殺してやる


 








 死ね









 拳を突き出そうとして、動きが止まる


 オレと黒い角の化け物の間に女がいる


 髪の長い女だ



「先生!?」「かすみ!」「かすみっち!?」「「かすみさん!!」」「かすみちゃん!!」


 女達が叫び声を上げる


 かすみ・・・という女の胴体には黒い化け物の腕

 胴体を貫く腕が見える


「邪魔・・・ガッ!?」


 黒い角の化け物が女に手を振り下ろそうとしたので、反射的に顔を撃ち抜き黒い塵にする


 頬に感触

 女が倒れて来て、抱きかかえる

 血まみれ

 当たり前だ

 腹に大穴が空いているのだから


「・・・零士」


 またレイジ

 ・・・レイジとは誰だ?


「お前は・・・こんなになるまで戦っていたのか?」


 震える声で、血を吐きながらそう言葉にした

 

「美奈ちゃん!回復を!」

「はい!零士さんそのまま動かさないで!!!」


 周囲に女が集まってくる


「誰にも手を出させないわ!!」

「意地でも守って見せる」


 剣を構えた女と、周囲に力場を発生させた女


「おどれら、さっさと居ね!!」

「よくもレージとかすみっちを!!」


 強い妖力と魔力を持った女がその力を開放して両脇を固めている


 ・・・この女たちは・・・?


「おのれぇ!邪魔をしおってぇぇ!!!もう少しだったものを!!!」


 気に食わない声が聞こえる


 わからない

 わからない、が・・・



「零士・・・」


 今にも死にそうな女から、目が、離せない・・・


 死など慣れている・・・筈なのに

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目指せありふれた穏やかで幸せな日常!〜非日常系の女子達を添えて〜ねぇ、なんでスペシャルしか来てくれないの?俺はノーマルで良いんです!! 196 @196

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