第11話
「そろそろいいかな。アリア、速度を落としてくれ」
森を出てしばらく走ったところで、アリアに走る速度を落としてもらうことにした。
マルクスたちは無事だろうか。マルクスたちのおかげで、森の入り口で俺たちを発見した魔王軍は追ってこられないはず。
「マルクスたちには感謝しかないな。もっとも、具体的に何をしてくれたのかはまったくわからないんだが」
後ろを振り返るも、目で見てわかるようなことはない。耳をすませてみるが、音も聞こえない。悲鳴や怒号、戦闘音だけでなく、鳥や虫の声すら聞こえないことから、何かやっていることだけがわかる状況だ。
マルクスが言っていた得意分野を踏まえると、何もないのがうまく言っている証拠とも言えるだろう。
しかし、生物としての強度や生命力で比べれば、人類のはるか高みにいる魔王軍。生き物としての格が違う魔王軍を正面から相手取るには、神の祝福を受けた勇者が必要になる。
切り札とも言うべき勇者のいないマルクスたちが魔王軍を抑えてくれていることに、今は感謝の念を送ることしかできない。彼らの尽力に報いるためにも、俺たちは慎重に進んでいくのだ。
「さて、ここからどうするか。元の街道に戻るのはなしとして」
「ヒヒン?(山を突っ切る?)」
「他の馬車が先にたどり着いてくれる確証があれば、確実性の高い山越えもありか」
俺の脳裏にマルクスに言われた言葉がよぎる。
「いや、山越えはダメだ。マルクスたちが騙されてる。輜重隊の他の隊も魔王軍に妨害されている可能性が高い。となると、早く物資を届けないと勇者さまたちは補給なしで戦い続けているかもしれない」
魔王軍が撤退を偽装していたのだった。魔王軍の動きを考えると、他の輜重隊の通る場所も同じようなことが起こっていてもおかしくない。
「ヒヒン?(早さ重視なら街道に戻るの?)」
「元の街道に戻るのはなしだよ。俺たちを追いかけてきた魔王軍がいるだろうし、なによりマルクスたちの尽力を無駄にしちゃう」
「ヒヒン!?(じゃあどうするのよ!?)」
「それを考えているんだって……あ!」
「ヒヒン!?(え、なに!?追っ手!?)」
「え?……あ、ごめん、違う。追っ手じゃない。元の街道以外に早く物資を届けられる道を思い出したんだ」
「……ヒヒン(……なんだ、びっくりして損しちゃった)」
「ごめんごめん。びっくりさせて悪かったよ……じゃなくて、街のことで思い出したことがある。街道の反対側をずっと山に行ったところに、鉱山村があったんだ。原因は聞いてないんだけど、魔王軍が攻めてくる前に鉱山が閉山して廃村になっている。魔王軍が攻めてきたときにはすでに人間がいなかったから、重要視されていないはず」
頭の中に広げた地図に、現在地から件の鉱山村までの道筋を描いていく。森の中と比べればひらけているので、馬車が走りやすいだろう。山越えよりもかかる時間は短く、うまくいけば日が落ちる前に砦につけるかもしれない。
「このまま山の裾を回って鉱山村に行こう。鉱山村からなら砦まで道が通っていた。使われなくなって時間がたっているが、森の中よりはるかに通りやすいと思う」
「ヒヒーン!(いいわね!森の中を進むのって大変だから助かるわ。行きましょう!)」
馬車の勇者 〜物資運搬兵士ギーツと愛馬アリアの冒険〜 カユウ @kayuu
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