第24話 黒幕
「麻痺の呪詛。」
ブルーノは目の前の男を無力化するため麻痺の術式を行使する。
即死するような術式は使用しない。
アイビィに"勇者"と呼ばれていたことと、アクローマの名を口にしたことについて聞き出さねばならない。
それにカインの話ではゴーシュを攫った者は"バッツ"というギルドの人間のはずだ。
「おい、魔王!こいつを止めてくれ!俺に子供を斬る趣味はねぇ!」
ジンは、肉迫してくるブルーノの魔術を全て回避又は防御していた。
先程から攻撃は一切していない。
「お主の仲間が弟を解放するまでは止まらんと思うぞ。」
なにを分かり切ったことを…とアイビィは子供相手に防戦一方な勇者に向けて気の毒な視線を向ける。
アイビィは、自身の仇討ちを優先してブルーノの覚悟に水を差すことが無粋であると考え、この場は手を出さずに見守る。
「ちっ…百面相の奴、もしかして本当に子供を攫って来やがったのか…?だが、誤った情報を寄越してくるとも思えないな。」
とぼけている訳ではなさそうな姿にブルーノは違和感を覚える。
「お前の仲間にバッツという者はいるか?」
攻撃を止めバッツとの関係を問う。
突然の質問にジンが一瞬、硬直する。
「嘘誅の呪詛。」
たった1回の瞬きの間、防御が疎かになったジンの首元に呪詛を含んだ紋様が現れる。
この呪いは、そのままの状態では攻撃性が一切無い。
効果を発揮するために条件が必要。
その条件とは、対象が嘘を口にすること。
「バッツ?聞いたことねえな。」
答えは否定。
嘘誅の呪いは反応していない。
つまり、ゴーシュを攫ったことにジンは関与していない。
だが、救出の邪魔をしている事実は変わらない。
「ゴルゴーン!」
ブルーノの指示でステノ、リュア、メディがジンに向かっていく。
その瞬間…
「う、動くんじゃねえ!」
ブルーノの優勢で進んでいた状況は一変、全員が声の方へと視線を向けその光景を前に動きを止める。
全員の視線の先…
ジンの背後にある小屋から1組の男女とゴーシュが出てくる。
男の方がゴーシュの首にナイフを当てている。
「レイナ、あの勇者様は味方ってことでいいんだよな?」
「えぇ、私の味方ではあると思うわよ。」
直後、ジンから強烈な殺気が放たれブルーノが一歩後ずさる。
人質。
敵の増援。
先程とは打って変わって本気の殺意を放つ勇者。
アイビィは手を出さないとも言っていられない状況を前に魔力を熾そうとする。
「で、"どっち"だ?」
だが、殺意はブルーノやアイビィに向けられたものではない。
ジンは小屋から出てきた男女を睨みつけている。
「私よ。教会の代理さん。」
「そうか、1つ聞いてもいいか?」
ジンが剣に手をかける。
…………シッ
ゴーシュの耳が風切り音を捉え、生暖かい感触が首筋を伝う。
気味の悪い感触の正体を確認するため後ろを振り返るとそこには、先程から背後に立ち首筋にナイフを当てるバッツがいた。
ただ、その頭部だけは地面に転がっていた。
「あら、折角見つけたビジネスパートナーだったのに。子供に甘いって本当だったのね。」
仲間の首が斬られる光景を見たレイナの興味はバッツの死よりもジンの方へと向いていた。
「"赤い魔力がいる"って言うからアクローマの代わりに来てきてみればよぉ。こりゃなんの冗談だ?」
怒気の混じった殺気を放つジン。
青筋を立て力んだ腕で握られた剣からは尋常ならざる魔力が発せられている。
「はぁ、冗談でもなんでもなくその子で合ってるわ。メラルダの研究塔で多数の目撃者もいる。」
狼狽える様子も無く辟易した様子で淡々答えるレイナに対してジンは更に強く怒気を発する。
「その子供に魔力は無ぇ、心象を見るに至った俺が断言する。その上でもう一度問うぞ。赤い魔力は誰だ?」
最後通牒。
返答を間違えれば、次の瞬間に首は胴から離れることになる。
レイナは自身が置かれている状況を理解する。
理解した上で…
「そこの坊やが"赤い魔力"よ。」
返答を聞いたジンは抑えていた魔力を解放する。
魔力は衝撃波を伴い拡散していく。
「"主様"。今のうちに。」
巻き込まれる前にステノが僕を抱えてその場を離脱する。
100m程離れた木の陰まで移動するとステノは僕を地面に降ろす。
「アイビィさんが障壁を張ってくれていただろうけど、ありがとう。それで、何で僕を助けたの?」
「主様の身を守ることは当然のことです。」
ブルーノの護衛としてメラルダ家に仕えるステノがゴーシュを守るのは当然のこと。
ステノは当たり前のことを聞かれて困惑する。
「ゴルゴーン達はね。僕のことを"主様"とは呼ばないよ。
…ねぇ、レイナさん。」
ステノはレイナと呼ばれ、面食らった様子で硬直する。
その後、諦めたように表情を緩め…
口の端を吊り上げて笑みを浮かべた。
黒魔術名家の落ちこぼれ〜「彼岸の君主」に覚醒したのであの世もこの世も無双します〜 星野彼方 @hoshino-kanata
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