4-2.必要なのは能力の有無
しばらくしてツキミが起きたのち、事態は急速に動いた。
まずは四人の
(ふゆ
彼女は以前、屋敷から飛び出したきり、姿を現すことはなかった。
「ふゆ
『何を心配してんのさ、
ツバキの声が頭に響いた。かんざしを挿し、支度を終えてから縁側のふすまを開ける。
紅の花弁を風に揺らせたツバキが、微かに全体を金色に光らせている。
「今から四人の
『自信を持ちなよ。大丈夫だってば、ねえ、樫』
『ツバキは気楽でいいのう。真鶴が不安なのはわかるぞ』
「ええ。まだ
『それで十分だと思うけどな、あたいは』
『
「そう、よね。念話ができるようになっただけでも、わたしにとっては大きな成長だわ」
けれど、と
きっと
「ひいさま、失礼しますの。
「……ありがとう、ツキミさん。今まいります」
ツキミの声に振り返り、口をきゅっと締める。
部屋から出て、背筋を正した。ツキミは付き従ってくれてはいるが、
応接室までの道のりが、今まで以上に長く感じる。それでも
「
「入れ」
応接室の奥から聞こえたのは、厳しい
ツキミが扉の片方を開ける。
「失礼いたします」
そうして視界に飛びこんできたのは――
「なんだい、ずいぶんちっこい娘だね」
こめかみに象牙色の角を生やした鬼人の女が、着物を揺らして豪快に笑う。
「小さいが大きいが関係ない。必要なのは能力の有無」
「
(右にいらっしゃるのが
「ご挨拶が遅れました。お初にお目にかかります、
三人しかいない、ふゆ
「座ってくれ。丁度、君の話をしていたところだ」
「はい。失礼いたします」
黒い
威圧感が凄まじい。とりわけ、男二人の視線も厳しいものだ。
話の口火を切ったのは、湯飲みを置いた
「先程も言ったように、俺は彼女を正式に娶るつもりだ。
「
「
「珍しい意見の一致だ、
「その能力のことだが」
らんと
「
「へぇ。一体いつの間にだい、
「つい先程」
「それが真実ならば、
らんに言われ、
「どうなのかえ? できるのか、できんのか」
「
「……やらせていただきます」
全員の注目を浴び、内心震えていた。
上手くできるか、緊張で唾を飲み込みつつ、ツバキへと集中する。
(手折られたツバキさん……どうかわたしの言葉に応えて。あなたとお話しがしたいの)
『めちゃくちゃ乱暴に折られて、痛いんだけど』
少しの間を置いて、ツバキが怒りを押し殺した念話を伝えてきた。
「この子は……乱暴に手折られたことを怒っているようです」
「そんなもの、少し見ればわかることよ。傷跡で確認することもできるであろ」
対話できたことにほっとしたのも束の間、
『あたしを折ったのは、ハナミさま。ハナミさまが裏庭で折って持ってきたのよ』
「失礼ですが、ハナミさまが裏庭から手折って持ってきたのだと。そう告げてきています」
「おやま、ばれちまったら仕方がないねえ」
ハナミを見ると、彼女はにやりと口の端をつり上げた。
らんと
「
「使用人に聞いたのかとも思います。では、今度はこれはどうだ」
そう言って、らんが机に置いたのは一つのしおりだった。
「カスミソウさん。お話しはできますか?」
『いいよ、
「何か一つ、らんさまのことを教えて下さい」
『実はここだけの話、
「それは、話してしまってもいいものでしょうか……」
悩みあぐねる
「何を聞いたか知らないが、とっとと口に出せばいいものを」
「ほんに、ほんに。なんじゃ、犬神の話というのは」
「ええ、と……らんさまは、
「なっ……」
「ほう、犬神よ。我の尾が羨ましいか。そうか、ハハハ」
「秘密を聞き出すなど、
「そうでもしないとお前たちは納得しないだろう」
「し、しかし
「ふむ、そうさな。
「なあなあ。ちょっとさ、オレにも話させてくれないかね」
痛いところを突かれた、と
「なんだ、
「アンタら結局、どうしたいの。どうなってほしいんだい、
「無論……つつがなく幸せになっていただきたい。それだけだ」
「うむ、それもまた犬神と同じよの。我らの名付け親にしてあるじと認めたお方には、いつも心、健やかであってほしいと思うぞよ」
「
ハナミが立派な角を指で掻き、らんと
「二人が思い合っているなら、オレは
「貴様はただ酒を飲みたいだけだろうっ」
「あれま、わかっちまった? でも、今まで
「それは……」
ハナミの言葉に、らんはあからさまに動揺した素振りを見せる。
「力の有無も大事だろうけど、人柄がまず肝心だとオレは考えるねぇ。幸い、この娘はあの土蜘蛛みたく高飛車じゃない。使用人たるオレの娘にも、優しい」
言って、ハナミは豪快に笑った。
「娘というのは、まさか……ツキミさんのことですか?」
つい、
「ツキミはオレの子の一人。いつも世話になってるみたいだねぇ」
「そうだったんですね。わたしの方こそ、ツキミさんにはいつもお世話になっています」
「話を逸らすでない。なごむな、
「失礼しますわ、皆さま」
扉が数回叩かれる。同時に聞き覚えのある声に、
開いた扉から現れたのは、朱色の着物に身を包んだ――
「遅れてごめんあそばせ。三名の
紅の唇をつり上げた、ふゆ
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