3-11.わたくしからの贈り物が気に入らないのかしら
二人で穏やかなときを、
家の前に、二つの人影があった。
「君はそろそろ自分の立場を自覚したまえよ、蜘蛛
「
みつやと、ふゆ
「何をしている、二人とも」
「
「ま、加賀男さま。それに真鶴さんも。ご機嫌うるわしゅう」
「今日はどうした。お前たちが顔を合わせるなど、珍しいこともあるものだ」
「好きで会ってるわけじゃないさ」
「
悲しげに、
「いじめ、ねえ。どっちが誰をいじめようとしてるんだか」
「
「敬意を払ってるさ。鬼の可愛い子たちには特にね」
「まるで、わたくしが可愛らしくないと断言しているようなものですわ」
艶美な様子で
「
「ああ、すまない。ツキミに運ばせよう」
横に身を引く
「ぼくは遅めの昼食を、と思ってね。一度も
「図々しいな、お前は。……すまないが、これに昼食の残りを出してやってほしい」
呆れたように苦い顔を作る
「はい……すぐに料理を温め直しますね、みつやさん」
「ありがとう、
「いえ、お口に合えば嬉しいです」
「あら? 存外お似合いですのね。ね、
「そんなことは……」
「あわわ、寝ぼすけしましたの!」
「まだ眠っていたのか」
「ごめんなさいですの、
「野菜なら裏手に置いてありますわよ」
「ツキミ、お前は野菜を冷暗所へ。あとは俺たちがやる」
「はいな!」
言って、
楽しそうに笑うふゆ
「優しさは毒だ、っていってるのになあ、
「君と結婚するんだからさ。他の女にかまける暇なんてないだろうに」
「……
「まあ、そうかもしれないけどさあ」
「それに、わたしにもお心を向けて下さいます。その優しさが嬉しいですし」
「ま、こそこそと内緒話だなんて。やっぱりあなたたち、お似合いですわ」
口の端をつり上げるふゆ
「先に行っている」
暗い面持ちでそれだけを告げ、彼は通路を曲がって姿を消した。
残された
「みつやさんもお先に部屋へどうぞ。わたしは料理を温めますから」
「なんかごめんよ。全く、
謝るみつやへ無言でかぶりを振り、一人台所の方へと向かった。
(やっぱり、ぜいたくになっているのね)
台所の中で、冷たい水で手を洗い、思う。
最初は優しさを他の人へ、そう望んでいた。だが、次第に与えられる気持ちや心遣いを求めている自分がいる。思いも感情も、全てがほしいだなんて、欲張りが過ぎるだろう。
(皆、そう考えるのかしら。誰かから全部をもらいたいと)
胸が苦しく、痛い。気持ちが塞ぎこみ、ため息ばかりが出た。
それでも手は動く。挽肉のつみ入を温め直し、キャベジのサラドを盛り付け、味噌汁と白米をよそう。
簡易な料理を盆に載せ、食事処へと足を運んだ。
「失礼いたします。みつやさん、お食事をお持ちしました」
中に入れば、どこか張り詰めた空気が漂っていることに気付く。それでもふゆ
いつもの席に腰かける
「あ、
「いいえ。ご飯はこれしか残りがありませんけれど」
「あら、キャベジ? キャベジは
「え……そうだったのですね。申し訳ありません」
献立を見て眉をひそめるふゆ
「問題なく食べられる。気にすることはない」
とりなす
「生野菜は出してらっしゃるのかしら、
「生野菜は、おやつに出しています」
「まっ、その程度?
「あのさあ……」
「ふゆ
顔をしかめて口を開くみつやを、
「わたしの料理には、きっと至らないところもあるでしょう。ですが、命を調理するときには心を込めています。ふゆ
淡々と、しかしきっぱりとした声が出る。怖れることなくふゆ
「
「……ッ!」
言い切った刹那、ふゆ
「そこまでだ、ふゆ
「か、
すぐにそれが、消えた。空気をとどめた
「それ以上殺気を放つことは、俺が許さない。
「あ……わ、わたくし……」
迷い子のように視線をさまよわせ、顔を真っ赤にしたふゆ
「……失礼しますわ!」
悔しさをにじませた瞳で
大きな音を立て、パネル扉が閉まった。
「も、申し訳ありません。わたし、出過ぎたことを」
「いいんだ。君こそ大丈夫か」
「は、はい。手と足が……少し震えてますけれど」
「そのくらいの気丈さはあってもいい。むしろ、その、意外な一面を見られてよかった」
「あなたさま……」
安心したからか、
「なんかもう、お腹いっぱいになってきた」
ささやくみつやを見る。食事にほとんど手をつけていないのに、どうして腹がくちくなったのだろう。
「まだ食べてらっしゃらないのでは?」
わからず小首を傾げる真鶴に、みつやは片目を閉じてみせた。
「いやはや、いいものだねえ」
「何がでしょうか」
「
彼もこちらを見ていた。柔らかく包みこむような目線で。
そのおもてに、目付きに、胸がまた鼓動を慣らす。とくとくと、優しい音を立てて。
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