3-2.いただきます
……結局、
ツキミと共に、料理が載った皿などを持ちこんでいく。
(
月光に目を細めつつ、今更ながらそわそわとしてしまう。
癖だけで作ってしまった代物だ。
「ひいさま、あとはウチがやりますの。座って待っててほしいですの」
「ありがとう、ツキミさん。でも天乃さまを起こさなくては」
振り返り、白米をよそおうツキミへ首を振った、直後。
「おはよう」
パネル扉が開かれ、
「おはようございますですの、
「お、おはようございます、
「ツキミはともかく君は早いな。……ん?」
匂いに釣られてだろうか、
「この朝食は……」
「ひいさまの手作りですの!」
「申し訳ありません、勝手にお台所や食材を使ってしまいました」
彼はじっと献立を見てから、
「ここは君の館でもある。好きに使ってくれて構わない」
「は、はい」
「それにしても、美味そうだ」
ふ、と
「食べよう。君も、一緒に。座ってくれ」
席を手で指し示され、
慣れないチェアの座り心地は、どこか落ち着かない。いや、それより、彼の舌を喜ばせられるかどうかの心配が先んじている。
「それではツキミは失礼しますの。あとはひいさまにお任せしますの」
一礼ののち、ツキミが退室していく。
「いただこう」
「はい。いただきます」
二人一緒に手を合わせた。
早速、菜っ葉の味噌汁をすすった
「……美味い」
穏やかに微笑む彼のおもてに、
「まともな食事など、ここ数年していなかった。暖かくて安心する味だ」
「それはよかったです」
それから
「白菜の漬物も、君が?」
「塩揉みしたくらいのものですけれど。ぬかがなかったものですから」
「十分すぎる。この魚も、大根の煮物も、本当に美味しい」
「お口に合ったなら……嬉しいです」
喜びの感情など、今の自分には存在しない。それでも食べてくれたことがありがたく、落ち着きのなさはいつの間にか消え去っていた。
「もし君がよかったら、これからも料理を作ってくれれば俺は、嬉しい」
「わたしの料理でいいのなら……お野菜の丸かじりは、あまりよくないことですし」
「ツキミに聞いたのか」
困った顔をする
「俺は手料理というものに、ほとんど縁がなくてな。たまにみつやに引っ張られ、洋食店などには行くのだが」
「みつやさんはもうお戻りに?」
「とっくに帰っている。あれも寿々家の一族だ。小刀で俺が張る結界を破り、
「そうだったのですね」
「……みつやの身を案ずるか」
若干暗い声音に、一度箸を置いた。
「いえ。食事を作りすぎてしまいまして……残してしまうのが心配だったのです」
「それなら大丈夫だ。ツキミはああ見えて大食らい。それに、俺も食べる」
苦笑をこぼす
「本当に、美味い食事だ」
しみじみとした口調で言われ、しかし
よかったという思いはある。安心感は確かに覚えている。だが、本来あるべき喜びが、すっぽりと欠け落ちていた。
それでも少なくとも、飯炊き女房としては合格だろう。彼がなごんでくれた事実は確かなのだから。
(それで今は、十分だわ)
箸を再び手にし、魚や白米を口に運び、
(……でも)
本当は昨晩のことを聞きたかった。
「よかったら、あとで出かけないか」
ツキミがあらかじめ用意していた番茶を飲み、
昨夜のことに気を取られていた真鶴は、少し反応が遅れてしまう。
「お出かけ……」
「いや、気乗りしないのならばいいんだ」
「
真鶴もようやく食事を終えつつ、とりとめもなく疑問に思った。
「ああ。普段、何か問題があれば、直接まつろわぬものたちは家に来る。だが、そうならないため見回るのもまた、俺の仕事だ」
「そうなのですね。ですが、お仕事にわたしがついていくのは邪魔なのでは」
「君も
困ったような、迷ったようなおもてを作り、
「何か?」
「……この
言いよどむ彼の様子に、
力も中途半端な自分が表に立てば、
「君もきっと、この町に溶けこむことができるだろうから」
困惑する
「そういうことでしたら。ご迷惑でなければ、色々と教えて下さると嬉しいです」
彼は湯飲みを置き、じっとこちらを見てからまた、視線を逸らした。
「時計は必ず持っていくことを忘れないでくれ。
「はい。それまでに身支度をしますね」
答えながら、
彼は神秘的な藍色の瞳の奥に、何を隠しているのだろう。どうして自分に優しくするのだろう。
問い質ただせば答えてくれるかもしれない。だが、なぜか冷たく返されることが怖くて、黙って目を伏せる。
(おいたわしいわ、
昨日聞いたふゆ
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