2-4.妻と認められたわけではない
声の大きさにびくりと、
「今、のは」
入口近くからだ。何事かと思い
「ツキミ、保護してやれ」
「はいですの」
どこからか届いたツキミの返答ののち、彼は大きく嘆息した。
「あの、どなたかいらっしゃったんでしょうか」
「知り合いだ。どうせ今日も鬼人たちの
苦々しい声に、
「
「……
なるほど、と唇に指を当てた瞬間だ。
どたばたと、誰かが廊下を走ってくる音がした。
「
扉が開け放たれたと同時に、悲鳴の主と思しき青年が入ってくる。
毛先がはねたおかっぱ頭の黒髪に、赤いスーツ。かんかん帽と丸い眼鏡が似合う優男だ。
「なんで蛇がうじゃうじゃいるの? いつもより多いよね? 噛まれそうになったよ!」
「少しくらい静かにできないのか、お前は」
「ツキミちゃんに助けてもらったからいいけど……って」
青年が、
「何、誰、可愛い」
「俺が妻を
不機嫌そうな声音にもかかわらず、みつやと呼ばれた青年は唇を釣り上げた。
「そっか、君が
「
「そう。
「お医者さま?」
目をすがめ、友を睨む
「ツキミちゃん、いつものあれ出して。梅干し入りの
「
アルコールの匂いを漂わせつつ、近くに腰かけたみつやへ
見た目だけでいうなら、
みつやはけらけらと、軽快に笑う。
「ぼくのことはみつやでいいよ。いや、
「勝手に話すな」
鋼のごとき声音が空気を裂いた。叱咤に近い
「
「……妻と認められたわけではない」
力も使えない半端者。ほとんどただの人間である自分は、やはり彼にふさわしくない。
「
帽子を机へ投げ、みつやは肩をすくめた。
その様子に、真鶴が代わりに答えた。
「きっとわたしが困るからだろう……と。実家にいる
「
言って、みつやはスーツのポケットから葉巻入れをとり出す。
「
「花以外の植物との対話、その程度です」
「そっかあ。ぼくもね、
「でも、お医者さまなのでしょう? とてもご立派だと思います」
「
マッチをつけ、葉巻の煙をくゆらせながらみつやはまた、笑う。
「医者だなんて仕事、と兄には言われてる。まあ当然だよ」
「……誰が葉巻を吸っていいと言った」
片眉を器用につり上げる
「別にいいじゃないか。
「あ……わたしにはお気遣いなく、
「みつやさん、でいいって。ほら、呼んでみて」
「そ、それでは、みつやさん、と……」
「声も綺麗だねえ。柔らかくて、透き通ってて。姿もそうだけど鈴の音みたいだ」
「ありがとう、ございます」
声や容姿を褒められ、
「今日は診察の日ではないだろう。早く
微動だにせず、突き放すような物言いをする
「なんでそんなに怒ってんの? あ、
「人の妻となる女人を口説くような知人を、俺は持ったつもりはない」
「へぇ」
面白そうに笑い、紫煙を吐き出したみつやは、
「大丈夫そうだね、
「ええと、何がでしょうか」
「今にわかるさ。ここでの生活も大変かもしれないけど、慣れたら楽になるよ」
「はい、それは……覚悟をしてきておりますので」
死ぬ覚悟を、と付け加えようとしたのを飲み込み、
「失礼しますの」
机にあったアルミの灰皿に、みつやが葉巻を押し付けたときだ。
ツキミが入ってくる。手には盆を持っており、その上では湯飲みが湯気を上げていた。
「どうぞですの、みつやさん」
「ありがとう。ツキミちゃんの梅
「
「……今度はなんだ」
疲れきったため息をつく
「蜘蛛
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