2-3.配偶者としての使命は果たすつもりです
黒い煉瓦で作られた建物の周りには草木が満ち、親しみのある匂いに、
洋風の応接室に通され、ツキミが出してくれた緑茶にも手をつけず、ただ
一人がけのソファに腰を下ろしたまま、周囲を見渡した。
ステンドグラスで飾られた上げ下げ窓には赤いカーテンがあり、
(電気はどこから引いてるのかしら)
ふと、場違いなことを思う。しろじろとした明かりもまた、
「すまない、支度に手間取った」
ぼんやりと天井を見上げていたとき、不意に扉が開いた。
着流しした
「慣れない場所で落ち着かないだろう」
「いえ、大丈夫です」
「今から君に、ここ、
「規則ですか?」
「そうだ。この
「あやかしたちがいるから、でしょうか」
「その呼び方は禁句だ。まつろわぬものたち、と呼ぶこと。君も少しは知っているだろうが、彼らは品位を保つことを重視している。
「わかりました。まつろわぬものたち……ですね」
「そう呼んであげてくれ。この区画、
「はい」
「ここに太陽はないが、代わりに時間を示す鐘が鳴る。六時、九時、十二時、十五時、十八時に。時間の感覚に戸惑うだろうが、部屋に日めくりもある。辛いかもしれないが慣れてほしい」
そこまで言うと、
「君に、これを。他四区画に引きずられないよう、
「こんな高級そうなものを、わたしに?」
「いさかいが起きればただでは済まないだろう。持っていてくれ」
「……ありがたくお借りします」
少し迷ったのち、真鶴は銀色の時計を手にした。ひんやりと冷たい。
(こがねの肌触りに似てる)
思いながら帯に挟んだのを確認してだろう。
「まつろわぬものたち三人の
「そうだろうと思っていました」
「なぜ?」
「わたしは、
「
苦笑すら浮かべぬままに言い切れば、こちらを見据えていた
「
「使命、か」
ふと、
重たいほどの沈黙が下りた。カチ、カチ、と、掛け時計の音だけが大きく響く。
「他に何か、聞きたいことはあるか」
静寂を裂くように硬い声音で問われ、
「この区画は
「いる。……君がこがねとつけた蛇も、守り神の一人だ」
「こがねに、会えますか?」
「いつかは。名付けるというのは
「名付けることにそんな意味があったのですね」
漆黒の蛇を思い出しながら、やはり友人はあやかし――まつろわぬものなのだと悟る。
(勝手に名付けたことを怒っているかしら……)
こがねに、そして
顔色をうかがうように彼の方を見つめれば、なぜか
「こがねのことをどう思う?」
「とても賢くて優しい友人です。ずっと側にいてくれたので、心をなぐさめられました」
「そうか」
「
「……そうだな。ああ、それと」
と、
「うっわぁぁぁぁあ!」
唐突に、あまりにも不意に、
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