1-2.嫁げ
「勝手をして申し訳ありません。客間に用があります」
通路の奥は暗い。よく見えない、見知らぬ存在へ声をかけてみた。
「……客間なら中央の部屋だ」
「ありがとうございます」
相変わらず姿を現さない存在に、一つ頭を下げる。場所を知っているということは、もしかしたら
声はよく通る低音で、どこか優しかった。
客間にはすぐについた。一呼吸置いたのち、膝をついて背を正す。
「失礼いたします。
返答はない。そっとふすまを開け、三つ指で礼をする。
「さっさと入れ、グズが」
罵声は、父、
見苦しくない程度に
広い部屋だ。書院造りの客間は華美ではない。だが、松の
机の側に、人の形をした
「
「お気になさらず。こちらこそ出来損ないの愚鈍さを見せ、お恥ずかしい限り」
答えたのは、机の上に置かれたガクアジサイだった。花の思念を読み取れない
「まずは座りなさい」
「はい……失礼いたします」
揺らめく
(お父さまも
内心で思いつつ、微動だにすることなく威圧感に耐える。
正確に言うと、故意に枯れさせたわけではない。母、
病も怪我もたちどころに治すという奇跡の花を、御三家直下の
高熱と胸の苦しさでほとんど記憶はない。が、重度の肺炎から快復した
同じく肺炎だった母は、
御三家暗黙の決まりごとを破った真鶴は、
(これは、わたしが背負う罪)
少しうつむき、唇を噛みしめる。
怒りと憎悪、二つの感情はしっかりと、ガクアジサイから伝わってきた。
なぜお前だけが生きている。出来損ないのお前がなぜ――
そう聞こえた。いや、父は言葉に出してはいない。だがわかる。巨大な負の念に、膝へ置いた手が震えはじめた、ときだ。
「入る」
す、とふすまが開く。
約
(異国の方なのかしら……)
見知らぬ殿方を眺めるのはぶしつけだと思い、
「来たか、
「なんのご用か」
「まずは座れ。暑苦しい」
「
重々しい声に、
まつろわぬものども――すなわち、俗に言うあやかしたち。
彼らをなだめ、調停する役割の一族が
「
「そうだ。そしてお前は、
「……え?」
父の言葉に呆け、思わず疑問の声音が、出た。
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