第9話

「魔法が使えるだけでは手加減したシアターコネクトの対処さえもできないようですね」

「その発言は撤退を余儀なくされた守備隊の心を砕きますよ」

。ということはあなたもよく理解しているでしょう。クラム。」

期待外れを嘆くルリィを諫めようとしたクラムはその本人から諫められた。実際ルリィの発言は図星だった。

 ASFの頂点、聖天。それは敵味方問わず認める魔法を扱う者にとっての終着点と言える極致に辿り着いた存在。

そんな至高に憧れ、その高みへと至ろうとASF内では日々各々が研鑽に励んでいる。

そして才有りと認められた者達は聖天自らが組織する私設部隊へとスカウトされ喜びも束の間、まず間違いなく

 クラムもルリィにスカウトされる以前、正規部隊で前線指揮官として手腕と実力を如何なく発揮し重要標的ブラックリストに載るまでなっていた。そんなクラムもスカウト直後の手解きで容易く折られた。

今まで自分が学び、培い、磨いた研鑽の全てを注ぎ込んでも聖天たるルリィをその場から動かすことさえ出来なかった。ましてや参謀という立場上聖天内で最も戦いから距離を置いているはずなのに勝てる未来さえも抱かせてもらえない。

 クラムはその日憧れていた存在から意図せず拒絶された。

これはクラムに限った話ではなく、他の聖天でもよくある話であった。ASFに所属する者達が目標とする存在に認められる。それは一種の到達点であるが、しかし現実は。そして目線が同じとなり痛感させられる。と。

大きい喜びや希望を抱いて居た者ほど砕かれた時の心傷は大きい。現実に耐え切れず私設部隊を去る者も少なからずいる。それほどまでに聖天という存在は残酷だ。

 ただ折られてもなお立ち上がる者達もいる。クラムはまさにそれだった。

クラムは他の聖天からのスカウトに目もくれずルリィ率いる第1特務機関 の門徒を叩いた。遥かな高みを目指す以上にルリィ程の実力者が参謀という地位に留まることを許容しているのか。前線指揮官という立場上、理解せざるにはいられなかった。

 そして理解出来ぬままクラムは今の地位にまで来てしまった。そんなことを想いながらクラムは一つの疑念が浮かんだ。

「私の眼にはオンレ様が手加減しているようには見えませんでしたが?」

「その理由は?」

「シアターコネクト発動当初は均一な魔法密度で構成されていた武装群が、相手の実力に合わせて変化していたので見極めた上で最適を行っていたので」

 クラムの指摘は当たっていた。オンレは敵の防御魔法や耐性を勘案した攻撃をしており、防がれた際の対応策も織り込んでいた。一見すると手を抜いているようには見えない。しかしルリィは「先入観に囚われているわよ」と優しく説いた。

「オンレのシアターコネクトあれは武装の形状を弄っているけれど、別に全く同じものでもなんら問題はないはずよ。そしてそれぞれ武装ごとに正しい使い方を律儀に守っていた。オンレの魔法密度であれば刃の無い部分でも魔法防御ごと魔術師を粉砕することは容易いわよ。」

その言葉にクラム含めた司令部にいた者達は声を漏らした。

「あの魔法の真価は手数とオンレの魔法密度。それをあえて制限するような真似も分らなくわないけれど、恐らくオンレの魔法への執着の現れなんでしょうね」


オンレ・リーザ   

魔法と呼べる魔法を扱えず、魔法から拒絶されたともいえる身でありながら天上へと到達せし者。


「あなたの足跡は希望なのですよ。オンレ」

魔法とは言えないものだったものを修練と鍛錬で魔法にまで昇華させた天才オンレ

その功績は才能や実力の限界を超越し、不可能を可能に出来ること。

前を向き、進み続けることの1つの可能性の証明。

成功のモデルケースは細いながらも力強い希望の光としてASFに瞬く間に拡散した。

そして自分たちもと挫折や停滞していた者達がこぞってオンレのもとへと訪れた。結果ASF最大の部隊にまで拡大した現在でもオンレの指導方針は昔と変わらない。

「あなたに尊敬と感謝が止みませんよ。オンレ」

冷酷とも評されるルリィの瞳がわずかに憧憬の色に染まっていた。

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未定(後日決める予定) 四鈴 イト @Shizuryyl

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