第8話

「やっと本隊のご到着かな☆彡」

先ほどまで動いていた者達とは一線を画す存在にオンレは口角を上げ、振り返る。

刹那、オンレの真横をナニかが通過するのと同時に魔力の込められた刃が切っ裂いていた。

「いいねぇ~容赦無用の攻撃☆彡 私は好きだよ?」

微動だにせず言葉にて返すオンレの足元に、凶斬だったものが地面に虚しく転がっていた。

「おまえ何」

「斬った。ただそれだけだよ☆彡」

問いかけを食い気味に答えられた者の手には刀身の先端部分を失った剣が握られていた。

PSパーミッドスマッダは完全な実力個人主義だと思ってたけど、もう過去の認識かぁ☆彡」

「昔戦った時は、我先にと首を取るのにギラついてたのが今じゃあ・・」

『!?』

「分析官や斥候を使って組織的に首を取りに来るんだね☆彡」

先ほどまでオンレがいた位置を交差するように投げ込まれた刃物が地中深くにまで到達していた。

完全な死角かつ探知されても回避の暇を与えないほどの速度を持った刃を、オンレは僅かなターン1つで避けていた。

「初撃の防ぎ方から回避じゃなくて防御を誘発させて防御ごと貫通させる算段だったでしょ☆彡」

オンレに、「そうでしょ?分析官」と名指しされたPSの魔法師は怪訝そうに眉を顰めた。

オンレと対峙するPS本隊は、先ほどオンレによって全滅させられた第一都市レニーズ攻略隊総勢10万程度と比較すると10分の1程度の数しかいなかった。ただ目に見えるほど磨き上げられた魔力から1人1人が一騎当千の実力者と感じ取れた。

『お前ら守備隊を容易く蹴散らした者たちが何も出来ずとはな』

本隊を率いる分析官は血だまりを形成する骸たちをみて呟いた。

『見知った顔が幾人もいたんだが、それ相応の報いは受けてもらうぞ!」

言葉に込められた怒気はPSに伝播してゆき、総員が臨戦態勢へとなっていた。

「報いぃ?何か勘違いしていない☆彡」

普段眠たげでどこか気の抜けた印象を与えるオンレが、その瞼を開き宣告した。



「我らが保有地にずけずけと踏み入って生を享受できると思うなよ。下賤が」



『殺せ!!』

合図とともにオンレに向けて攻略隊が放った魔法をはるかに上回る量が放たれた。威力も魔法に属性等を付与して殺傷力を高めており、炎なら赤、氷なら青といった様相で様々な色を持った魔法が宙を翔けた。

瞳を眩ませるほどの閃光を纏った輝線が殺到する中、オンレは不敵に笑うと徐に腰に下げた剣の柄に触れた。

            

           「

オンレの口から零れた、オンレが唯一使える名称を持った魔法。

魔法発動と呼応するように飛来していた閃光群は空中でナニかとぶつかったように爆裂していた。

魔法の余波で視界がぼやける中、視界が確保されるとPS側に衝撃が走った。

無傷のオンレにではなく空中に展開された無数の煌きにであった。

剣や矢、槍といった大小さまざまな形状をした武装が青空を覆い、昼夜の認識を誤認させるほどの輝きを放っていた。

「次はこっちの番だよ☆彡」

熱を帯びた瞳を定めたオンレは、剣の柄を握る手に僅かに力を込めた。

それを合図に無数の武装達がPSへと襲い掛かった。

そしてどちらが侵略者なのか分からないほど残虐な虐殺が行われた。

その記念すべき第一号となったのは、オンレと同じように魔法と武装を組み合わせた魔法剣士ハーヴェストだった。

オンレが放った光の刃を魔法でエンチャントし強化した直剣で弾こうと刃を交えると、僅かに光の刃の勢いが落ちただけしか防げなかった。

直剣ごと身体を切り裂いた一撃は、次の標的めがけて攻勢した。

PSもバカではない。一回の相対からオンレの扱う魔法が常軌を逸していることを察し、オンレの攻撃から魔法への対処へと重点を即座に転換した。

それら一連の動きは大所帯でありながらも無駄のない統率の取れたものであり、個々の実力の高さだけでなく集団としての実力の高さを物語っていた。恐らく数えきれないほどの鍛錬と実戦を積んでいたのだろう。戦術の僅かな転換からこれほどの情報が理解できるほどPSは総合値が高い相手であった。

             

幾重にも張られた防御魔法を容易く貫く無数の斬撃は敵を次々屠っていた。

複数人が多重に魔法を行使することで一つの武装を止めることができた部隊は、希望を抱いたのも束の間、他の武装群によって無残に切り殺されていた。

あらゆる方向から迫りくる武装に避ける手段も対抗する術もなく、PSは蹂躙されていた。瞬きをすれば味方が殺されているという戦場が曲のサビ程度の僅かな時間で形成されていた。

 悲鳴と怒号、そして生物がその灯を奪われる水気を纏った音。

 空は青空で満点の星々が煌き、絶えず流星のように降り注ぐ。

 地上は天とは真逆の色を映す水面が着実に広がっていた。

そんな急激な変化に精鋭とはいえ誰しもが耐えられるものではなかった。

正気を失い、ただ茫然と死を受け入れる者。膝から崩れ、泣き笑いが止まらぬ者。自ら運命を決める者。

そんな絶望の中でオンレに対して抗おうとする者達もいたが、粛々とは進められた。

 一曲が終わるほどの時間でPS本隊であった一万の軍勢は戦場から消えた。

           剣を使わない魔法剣士ノン・ブレイドハーヴェスター

誰もその刀身を見たことが無いとされる剣を腰に携え、またしても抜かずして、敵を殲滅したオンレは、眼下に広がる水面をただ半分に開いた瞳で涼しく眺めていた。



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