病弱第一王女に遠隔操作で育てられた俺、ある日突然遠隔操作が切れて前世を垣間見る〜とりあえず王女の命令通りまずはあの森を制圧します〜

エンジェルん@底辺作家

Prologue 運命は刻一刻と

 目に映る景色はただただ地獄だった。


 生まれてから12年間過ごしてきた王城は炎に包まれ、どす黒い煙が空を支配しており、真っ昼間にも関わらず辺りは新月の夜のように真っ暗だ。


 「母上、父上、姉上、兄上......」


 「どうして...どうしてだけを逃したんですか......この先どうやって生きていけば...いい...の......うっ」


 叫んでいる声にもどんどん絶望が乗り移っていき、絶望のあまりに息を詰まらせる。


 「子供の僕たちに......何ができるっていうんですか......」


 敵軍がほくそ笑みながら僕たちのまわりをわざとゆっくりと囲ってくる。


 僕はもう生きることを諦めて崩れるようにして地面に膝をついた。


 僕のはさっきから何も言わないし、少しも動かない。


 当然か......僕より4歳も年下なんだ。絶望のあまりに思考停止しても仕方ない。


 そう思いながら隣の子を見上げると、僕は驚きのあまりに目を見開いた。

 隣の子は腕を組みながら、真剣な眼差しで何かを考えている。決して生きることを諦めていなかったのだ。


 「マティシア......お前はどうして......うっ」


 諦めないのだ?


 咄嗟に言いかけたけど息を飲んで何とか言い淀んだ。マティシアの瞳を見たら絶対に言えない、いや、言ってはいけない。


 マティシアの瞳はを見据え、目前の敵を映していなかった。僕はその瞳に見惚れてぼんやりとしながらじっと見つめていた。すると突然マティシアは小さな声だけど突き刺すような冷たい声で僕に話しかけてくる。


 「わたくしは......お兄様のことが大好きです。だからこのまま一緒に死のうと思っていましたが......」


 

 僕も......大好きだ、この世界の誰よりもかわいい妹のことが。すごく甘えん坊でいつも


 「お兄様ーーーーすきーー」


 そう言って抱きついてきた。


 でも、でも今妹は俺を突き放すような声で言った。そのことが悲しくて悔しくてたまらない。


 でもまぁ当然のことだよね......僕に幻滅したんだよね......僕はもうすべてを諦めてるんだから。

 

 「今は一緒に死にたいと思っていないんだね」


 「はい、お兄様、わたくしにはまだやらなければならないことがあるのも思い出しました」


 妹は間隙入れずに答える。妹の瞳が真っ直ぐと僕の瞳に向かい、その覚悟が十分にあることがよく分かる。


 「......」


 妹が助かる方法は確かにある。


 僕の未完成な古代魔法を使えば、1人だけなら助けることができた。


 でも、僕には誰も選べなかった。家族みんなが大事だから。みんなのことが大好きだから。

 そして、1番の理由は


 「1人だけ残されても......辛いだけだよ......」


 絶対にそうだ、突然知らない土地に1人ポツンと転移したら苦しいに決まってる。ましてたった8歳の妹だったらなおさらだ。


 「私は......この世界に生まれた転生した者として悲劇の運命を変えたいのです......お兄様の運命を......」


 最後の方はまわりの爆音にかき消され、僕の耳に届くことはなかった。

 僕がこれだけの覚悟を持っている妹を転移させるべきか未だに考えあぐねていると、妹がいつもと同じようで、違う感じで抱きついてくる。


 「お兄様......これはのお願いではありませんよ。だからお兄様は――してくださいね」


 妹はそっと僕の耳元で優しく呟く。


 この瞬間僕は迷わず妹をどこか遠くの地に転移させた。理屈ではないけれど、なぜか本当に最・期・ではない気がしたのだ。それに


 「どうしてマティシアは僕の古代魔法を知ってるんだよ......」


 誰も僕が古代魔法を使えることは知らないはずなのに、マティシアは僕が練習するところをどこかで見てたのかな? 今の僕にはなぜかそんなことを考える余裕がある。


 「くっ、くそこいつがマティシア王女を転移させやがったぞ、奴隷として売るつもりだったのに」


 「くそっ! このザコ王子をぶっ殺せ」


 クソ敵兵共が鬼の形相で迫ってくる。


 「よっこらしょっと」


 僕は地面ついていた膝を地面から離し、立ち上がる。


 「妹のお願いを叶えてこそ兄貴だよな。一か八かやってやるよ、待っとけよ


 その日僕は自ら肉体を捨てたのだった。





+++

 「ふあぁ〜、なんか長い夢を見てた気がするな......」


 少年は両腕を空へ伸ばして大きなあくびをしながら呟く。


 「......」


 いつもすぐに返ってくるはずの返事が返ってこない。


 「あれ? お姉さん?」


 今まで四六時中話しかけても必ず反応してくれたのに、今日この時初めて反応がなかった。顔なんて一度も見たことないし、どこから話しかけているかも分からない、お姉さんであるが、俺のことを今まで育ててきた人、流石に心配になってくる。


 「お姉さん大丈夫? 体の調子が悪いの?」


 「......」


 大自然の中、少年は叫ぶ。


 「お姉さん! 返事してよ! どうせまたドッキリでしたなんて言うつもりなんでしょ!」


 「......」


 返事は返ってこない。どこか遠くから鳥の泣き声が聞こえるだけだった。


 「昨日言ってたことは嘘なんでしょ......遠隔操作魔法が切れた時は......」


 お姉さんが死んだ時なんて......


 少年は膝から崩れる。


 少年自身もこの体勢に既視感を覚えたのだろう。


 「この感覚知ってるぞ......さっきまで見てた長い夢に出てきた王子だろ、もしかしてなのか?」


 そう思うと長い夢を鮮明に思い出すことができる、王族として過ごした12年間、そして最期の、いやきっと最期ではないと信じている妹からのお願い。


 正直今何をすればいいか自分では決められない、まだ心の整理がついていないのだ。


 だから今はお姉さんから与えられたを終わらせるとしよう。そう思うと俄然やる気が出てくる。こうして膝を着いてはいられない。


 「天国から見ててね、名も知らないお姉さん」


 「お姉さんの妹さんがどんな人かしらないけど必ず守るから心配しないで。それと......」


 少年は右手を空に向けて伸ばしながら、空を見上げる。


 「うぅ、眩しいなー」


 少年はすぐに目元を隠すように左手で覆う。今はちょうど太陽が雲に隠れているのに視線が霞む。溢れるものが頬を伝い始めると視線の霞がなくなった。


 「それと......今まで育ててくれてありがとう、大好きだよお姉さん!」


 少年はこれ以上にない満面な笑顔で空に話しかける。


 その瞬間少年の言葉に呼応するように春にしてはやけに生暖かい風が大自然を駆け抜けた。


 そして少年はを持ち、太陽がある方向に背を向けて歩き始める。


 少年が向かう先には真っ暗で悍ましい雰囲気を醸し出す大きな森があった。


 その森の名は


 


 人類立ち入り禁止エリアだ。


 「全くお姉さんは無茶を言ってくれたな......だなんて」


 でも、まさかこのおかげであんなにも可愛いお嫁さんと結婚できるなんてこの時はつゆほど思っていなかった。


 そしてこの世界の運命が変わり始めたのもこの時だったかもしれない。


 



 「ふふふ、滅ぼされるのは俺たちじゃない、お前たちだ」



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