夢の食品 星新一っぽいショートショートを目指してみた

神崎真

夢の食料

「やった、見つけたぞ!」

 N氏の歓声が聞こえてきて、私はどけていた瓦礫を投げ捨て、そちらへと走った。

 彼は崩れ落ちた巨大なコンクリートのわずかな隙間から、顔を出して手を振っている。

 ある日、突然落下してきた隕石により、文明は崩壊した。人々の多くが死に絶え、かろうじて地下シェルターに逃げ込んで生き延びた少数も、備蓄していた食料が尽き地上へと戻った頃には、破壊されきったその惨状に、呆然と立ち尽くすしかできなかったものだ。

 それからのことは、思い出したくもない。

 映画などでお定まりの諍いと、乏しい物資を巡る殺し合い。

 残り少ない生き残りはさらに数を減らしてゆき、私とN氏はそれを嫌って、二人でそっと人々から離れることを選んだのだった。

 廃墟をあされば、たまには食料や衣服、毛布といった物資を見つけることができる。少ない量でも、二人で分け合う程度なら、なんとかやっていけた。

 そうして数ヶ月。

 N氏の発案により海を目指した我々は、元は港だったと思しき廃墟にたどりついた。

 崩れ落ちた建物の壁には見覚えのある、安全基準に厳しいと有名な国の、大手メーカーのロゴがわずかに残っている。

 我々は手分けして必死に瓦礫をどけ、形を残している倉庫の中に入れないものかと尽力した。その努力が、ようやく実ったのだ。

「ああ、これだけあれば、二人でも十年は保つだろう」

 内部を見回したN氏が、夢のような光景に陶然と呟いた。

 見渡す限りに存在するコンテナは、いくつかが破損し、内部からレトルトパウチをあふれさせている。表面にプリントされている海外の文字は読めなかったが、色とりどりな料理の写真を見れば、それが食べ物であるのは言わずとも知れた。

「そうだな」

 私はN氏に答えると、足元にあった握りこぶしほどの石くれを拾い上げる。

 二人なら十年。

 一人なら二十年は食べていけるだろう。

「……あっ、こ、これは……!」

 パウチを持って、何やら驚いた声を上げているN氏の後頭部へと、私は手の中の塊を思い切り振り下ろした。



 一ヶ月後。

 今日もなんとか食事を終えた私は、立ち上がる気にもならないまま、空になったレトルトパウチを投げ捨てた。座り込んだ周囲では、すでに食べ終えたゴミが山となっている。

 なぜだろう。食べても食べても力が出ない。

 毎日三食きちんと摂ることができているのに、他の物資やさらなる食料を探す気力すら湧いてこないのだ。

 この無気力さは、たった一人の仲間を手にかけた、罪悪感や寂しさから来るのだろうか。

 ぼんやりとそう思う私は、知らなかった。

 パウチにプリントされていた文字が、こういう意味だったことを。


“糖質ゼロ”

“カロリー・ゼロ”

“代謝を高め脂肪の燃焼を助ける、夢の機能性表示食品です!”

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