セガのおばちゃん。

あるまん

第1話

 僕は地元のバスに揺られ、隣町の病院を目指していた。初老に差し掛かった、太ってでかい身体を狭い席に預け、夏の暑い日差しに照らされた窓の外を見ながらウトウトと微睡んでいた……。


 「〇〇くん?」


 不意に声をかけられる。見ると、50代後半~60代位の女性が声をかけてきてた。寝惚け眼の僕は誰だっけ、とゆっくり思い出そうとしたが……

 「あ、嗚呼っ、セガのおばちゃん?」

 ……そう、彼女は……僕が学生時代隣街の高校に通っていた時、バスターミナルの2階のゲームセンターの管理をしていた女性だった。

 セガのおばちゃんというのは勿論通称で、特に名前は聞いた事がない。セガ系のゲーセンだったのかも定かではない。普通に別会社の筐体もあったしな。

 ソバージュヘアーと云うのかな? 強めのパーマをかけた栗色のショートカットで割と痩せ型、申し訳ないがそれなりの厚化粧をしていた。

 かなり気さくな人物で、バスを待つ間遊びに来た自分ら学生の常連とも普通に話をし、テーブル筐体に飲み込まれた硬貨を取り出してくれたり、大き目のお金を両替してくれたり……。

 学校を卒業した後最初の職場を試用期間で辞め、それからバイト等繰り返しつつも、乗っていた中古車でこのターミナル2階のゲーセンに通ったり、

 恥ずかしい話だが当時更年期障害や躁鬱の気のあった母親がゲームセンター横のクレジット会社に相談に行く時、車に乗せて連れてきたついでにそこのゲーセンで時間を潰し、彼女とも話をしたりしていたので、他の常連よりも長期に渡って付き合いがあったかもしれない。

 そのバスターミナルが老朽化の為取り壊され、特に別れを言う事もなく会えなくなってしまった……でもインパクトはあったようで、先日も数少ない友人と話した時セガのおばちゃんの話が出たくらいだ。


 「お元気そうで……」

 僕が学生時代だから、もう80~90台になっててもおかしくないのに、その当時と然程変わらない容姿で現れた彼女に、何故か不思議がる事もなく、僕は興奮した感じで世間話をし始めた。

 申し訳ないが興奮していて、色々な事を話した気もするがほとんど覚えていない。覚えているのはそのおばちゃんの住所等を聞こうとしたが、何か家で食べた食物に当たって入院をし、その間に病院が家になっているという事(自宅を引き払った?)と、ゲームセンター常連で顔と名前を知っていたが特に親しくもなかった先輩の子供が遊びに来てくれたという話とかだった。

 

 特に出会いから恋愛関係に発展したとかそういう事もない。ぶっちゃけていうと僕は二次コンのうえロリータ・コンプレックスの気があるし、当時ですら50台前後の彼女は対象外だ。

  ただあれだけ興奮して喋ったという事は、まぁ普通に自分の人生を通り過ぎて行った一期一会の人々よりは特別な関係だったのであろう。少なくとも学校の先生に出会ってもあそこまで興奮はしなかったと思うし。


 彼女と最後に別れた時……正確には日常的に出会っていたのが急にターミナルの建物が取り壊され会えなくなった時と同じように、特に何事もなく、またどこかで……という感じで別れた。結局彼女の住所等も聞けなかった(別に押し掛けるとかそういうつもりは毛頭なく、ただまた彼女に出会える場所が欲しかっただけなので、病院等に通う日付を聞いた方がよかったかもしれない)。

 まだ夢の様な話と思い、微睡んでいると……


 起きた時、いつもの天井が見えた。


 そう、今の話はバスで微睡んでいた所も含め、自室での夢の話だったのだ。


 道理で彼女の容姿が変わっていないし、少しは覚えているであろう世間話もほとんど覚えていない筈だ。

 でも夢を見ている時に夢と認識する事は難しく、妙にリアリティのある話(家で食べ物に当たったとか、親しくない常連の先輩の子供とか……)をされたので見ている間一ミリも不思議がる事はなかった。


 思うのは、何故この時期に見たのだろう、という事。

 先ほど話した友人との会話も先日といったが半年とか前の話だし、今は車に乗らないのでバスに乗ってはいるが……。

 関係あるのかどうか判らないが、そういえば昨日、同居している姉がその友人と、亡くなった共通の友人の墓参りをし、更にその自宅へ花を持って行っていた……そう、お盆の時期であるという事……。

 実際にセガのおばちゃんが亡くなったと思うのは年齢的に不思議でなくても不謹慎かもだが、もしそういう事なら、夢でも僕の事を覚えていて声をかけてくれたのは少し嬉しかったな……。

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セガのおばちゃん。 あるまん @aruman00

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