第2話

 死にかけたあの日から2年がたった。


 私は死ななかった。なぜなら、運が良かったからとしか言いようがない。

 私を拾ってくれたのは、2匹の狼だった。いや、狼じゃないかも。体長三メートル以上もある狼なんて聞いたことないし。

 初めて彼らを見たときは、流石に死を覚悟した。が、私は生き残った。

 どうやら私が意識を取り戻せたのは、狼のおかげらしい。

 この世界には魔法というものがある。魔力という、体内にある謎の力を使うものだ。

 狼はその魔法を使って私を回復させてくれたらしい。

 え?なぜそこまで意識がない間のことを知っているか?

 それは、もちろん狼に聞いた。

 ……会話?できる。いや、私が頑張って言語を獲得した。

 最初は、なにか違和感を感じていた。脳に何かが響くのだ。気のせいかと思っていたから、ある日そうではないことに気がついた。それが狼達にとっての会話だったのである。

 会話方法は、魔力に意思を込めて発するだけ。だから、会話は思念?を受け取るみたいな感じだ。何言ってるんだと思われるかもしれないが、言葉の意味だけ脳に入ってくる感じ。だから、念話と呼ぶことにしている。

 簡単そうに聞こえるかもしれないが、意外とこれが難しい。

 そもそも、地球には魔力がなかった。だから、魔力があるということも、狼が魔法を使うまで知らなかった。

 だが、狼達の念話に気づいたときに何となく魔力はこれかな?みたいな感覚はあったので、それから一週間で念話を習得した。

 私が初めて狼達に話しかけたときの彼らの反応は、それはもう凄かった。

 その時にはある程度仲良くなっていたのだが、彼らは飛び上がって驚いて、こちらを凝視して、私を口に咥えて森を走り回った。私も驚いた。まさかそんなに驚かれるとは。

 その後、会話ができるのが嬉しいらしい彼らに最初の方で言ったようなことを聞かされ、私は彼らを父さんと母さんと呼ぶことにした。二匹は夫婦で、そう呼んでほしいと言われたし、私もそう呼びたかったからだ。

 私は前世の母親が好きではなかったし、父親というものも知らなかった。だが、父さんと母さんは家族の愛情を教えてくれた。

 それが、私にとってはすごく嬉しかった。


 といっても、ずっとここに留まっていようと思っているわけではない。流石に数十年変わりなくこの森で過ごすのは無理だ。暇すぎる。

 楽しくないわけではない。だって、私は魔法を使えるようになったからだ。父さんと母さんに教わった。

 また、この世界には魔物という魔法を使う動物がいて、襲ってくる相手とはひたすらに戦っていた。この森は魔物が多く住んでおり――というか、魔物が湧き出る謎の場所があり、多い日では1日中魔物と戦う日もあった。これが、意外と楽しい。どんどん自分が強くなっていくのが分かるからだ。

 だが、いくら楽しくても無理なものは無理なのだ。暇なのも確かに理由のひとつなのだが、それよりも重要な理由があった。それは、食事。

 ……父さんと母さんは狼だ。

 狼は肉食だ。

 そして、二人と一緒にいる私は、生肉を食べさせられた。

 最初は少し抵抗があったけど、その時は相当腹が減っていたので食べた。

 当然腹を壊した。

 今はもうどうってことはないが、それでも生肉を進んで食べたいとは思っていない。


 ……という感じで、私は大人になったら森を出ようと思っているし、父さんと母さんもそのことに賛成らしい。流石に人間に出会わずに一生を終えるのは可哀想だ、と。


 

 でもまぁ、それもしばらく先――具体的には成人してからになるだろうな、と思っていたのだが。




 


 私の耳に、悲鳴が届いた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生して軍人になった少女はチートな人生を謳歌したい @fuuuka0000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ