軍人になりたい

第1話


 私は一人で雨に打たれている。


 ここは森。まわりには木や植物。


 私は木にもたれかかり、空を見上げる。

 ……しばらく雨はやまなさそうだ。暗雲が立ち込めている。


 そして私は考える。


 私は何が悪いことをしたのか、と。


 だって、おかしいじゃないか。

 なんでこんな目に私があうんだろう。


 雨に濡れた黒髪が視界に入る。

 ―――忌々しい。

 父親の声がよみがえる。


 私はこんな髪色に生まれたかったんじゃない。

 お前らがそう産んだんだろう?

 そう言いたかった。

 しかし、3歳の私にそんな事が言えるはずもなかった。


 父と母の、あの目が怖かった。

 価値のないものを見る目。

 そして、憎んでいる人を見るような、そんな目。

 だから、あの家から追い出されたのはいいことだったのかもしれない。3歳まで追い出されなかったことも。

 身体もうまく動かせない赤子の頃に追い出されていたら、森に入った瞬間に動物や魔物に食い殺されていたかもしれない。

 そう考えると幸福なのか?

 ……いや、そんなことはないか。


 刻一刻と、死が近づいてくるのを感じる。

 これも2回目だ。

 というのも、私には前世の記憶というものがある。

 地球という星の、日本という国で暮らしていた頃の記憶だ。

 平和な国だった。

 でも、幸せとは程遠い生活だった。


 母親は私を望んで生んだわけではないらしかった。だから、私には父親がいない。そして、母は私に無関心。最低限の会話しかしなかった。

 そして、中学校卒業と同時に家を追い出された。自分で働け、と言われて。無一文で。

 私はその時、初めて自分が憎いくらいに母親に嫌われていることを知った。

 しかし、それを知ったからといって、何かが変わるわけでもなかった。


 私は仕事を探した。しかし、中卒の私がすぐに就職できるようなところはなかった。

 夜の街は危ない、ということを知っていた私は、夜を森の中で過ごした。そして、昼になったら仕事を探しに行く。だから、警察官に補導されるようなことはなかった。


 誰かに頼ろうとは思わなかった。母以外の家族がいるのかすら知らなかったし、学校ではイジメられていた。あの頃の私は人間不信だったのかもしれない。


 仕事を探し始めて三日目。とうとう体が動かなくなった。だから私はただ空を見上げていた。他にすることもなかったから。

 その時も、今のように人生を振り返っていたような気がする。

 ――嫌だな。

 このまま私は死ぬのだろうか。いや、死ぬのだろう。

 幸せ、というものを感じたのはいつだったか。今では思い出すことすらできない。いつか幸せになりたかった。今となっては叶えられぬ望みとなってしまったけれど。


 あぁ、眠くなったきた。


 おやすみ。そして、さようなら。




 私は永い眠りについた。





 ――と思った。

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