第9話 おまけ 水族館デート

 前話で終わった方が余韻があっていいなぁと思ったのですが、二人のデートも書いていたので蛇足ですがおまけとして載せておきます☆


* * *


 バイクに乗りエンジンをかけると待ってましたとばかりに、軽快なエンジン音を響かせる。


 美海はちょっと驚いた顔をした。

 入院中にあんなに、疎ましいと思った爆音が胸に心地よく響いてきたからだ。


「病院で聞いていた音と、全然違う……」

「元気になった証拠だろ? 確かに大きな音が出るときもあるから、安静にしてる人にはうるさいと思うよ。けど、俺には、いいBGMだな。吹かした音ひとつで、バイクの機嫌もわかるし」

「今日は、どう?」

「もちろんご機嫌さ!」


 タンデムシートに、美海を乗せ透は走り出した。

 初めて乗るバイクに緊張しているのか、彼女の腕が腰にしっかり巻かれている。

 その力強さに、透は美海の病気が治ったことを感じ安心した。

 

「バイクっていいね。自転車の早いのくらいにしか思ってなかったんだけど全然違う! 生き物みたい」

「誰がいったか『鉄の馬』なんて呼ばれるのもあるくらいだからね」


 一番近場の水族館ではあるが、美海のことを気遣い休みながら向かう。

 案の定、つくころには手がしびれるといっていた。

 ただ、それすらも楽しいように両腕をぶらぶら振っていた。 


  ★


 水族館は、夏も最後ということもありずいぶん賑わっている。

 色とりどりの魚を見て、美海ははしゃぎ、透はうまそうだと涎をたらす。

 まぶしい水しぶきを上げるイルカショーを見て、美海は大喜びだった。

 彼女は、動物が好きらしくイルカだけでなくアシカでもトドでも『かわいい☆』と言っていた。


(トド……かわいいか? あえて、つっこむのはよしておこう)

 

 最後に売店に寄ると、美海が一番好きだといっていたイルカをかたどった飾りがあった。

 透は、風鈴のお礼をしなければならなかったことを思い出しそれに手を伸ばした。

 飾りだと思っていたものに触ると金属同士がふれあいシャランと、涼しげな音を奏でた。


「……風鈴?」


 透の知っているガラスの和風鈴とは違う。

 しかし、揺れると音が出るつくりは風鈴といえるだろう。

 不思議そうにしている透に、美海が言う。


「日本の風鈴は短冊がついてるけど、他の国のはこういう金属が連なってる風鈴なのよ。英語だとウィンドチャイムっていうのかな」


 彼女には、友達がくれたというガラスの風鈴より、このウィンドチャイムの方が似合うと透は思った。

 ガラスの和風鈴は確かに繊細で美しい音色を奏でたが、あまりにも儚く透は胸が締めつけられるような音だと思っていた。


 しかし、目の前にあるイルカのウィンドチャイムはキラキラと光が飛ぶような、胸の躍る音がする。


 透は、そのイルカのウィンドチャイムを美海にプレゼントした。


「美海ちゃんには、こっちの風鈴のほうが似合うな」

「ありがとう。なんかね。手術後もなんとなく不安だったの、やっと元気になったんだっていう実感が湧いてきた」

 


 青い空に、白い入道雲。


 僕のエキゾストノイズに、君のウィンドチャイム。


 夏が過ぎても、

 まぶしい笑顔の音色を響かせている限り、

 きっと輝く明日がある。



 *END*



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君のウインドチャイム、僕のエキゾストノイズ 天城らん @amagi_ran

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画