第8話 俺の大好きな愛音さん
あの日、菊田さんははっきりとした告白の返事はくれなかった。
これに関しては俺も付き合ってくださいとは言っていないのでしょうがないとは思った。
あれから一ヶ月たった。
この間にかなり沢山のことがあった。まず、告白翌日に登校した俺は学年主任に職員室に連行され、反省文をかけと言われた。菊田さんにも同じ課題が課されたらしい。
職員室から教室に戻るとクラスメイトが好奇の眼差しを向けてきた。そりゃそうだ、あんなドラマか少女マンガみたいな去り方をしてしまったのだから。
しかし俺は人の噂なんて気にしないタイプなので、いつも通りに席について読みかけの本を取り出した。そこに佐藤がやってきて、質問攻めにしてきた。
すると、菊田さんが現れた。バチバチの量産型の服で。そしてクラスメイト全員の前で、自分と川島海人は付き合っていないなどの説明をしてくれた。とても助かった。
そして、自分が有名ティクティッカーあいねるだと改めて認めた。
「学校のわたしも、動画のわたしも、本物のわたしです。…好きでいてくれると、嬉しいです。」
菊田さんは不安そうな顔をしていたが、クラスの人たちは皆優しくて、特に女子は量産型の愛音ちゃんも可愛い、ティクティク実は見てたなどと騒ぎたて、彼女の変化を受け入れた。一部の男子は男性アイドルを推していたことに少々悲しくなったらしいが。
そして『あいねる』というのが、語呂がいいということで菊田さんのあだ名として定着した。
宮城さんはあのあと、担任にクラスメイトのプライベートを暴いたことと教室のスクリーンを勝手に使用したことなどで怒られ、やはり反省文を書かされたらしい。
事件から数日は一人で大人しくしていたが、ある日突然昼休みに菊田さんの机に訪問し、クラスメイト全員に聞こえる声量で謝罪した。
「うち、あのときは頭に血が登ってたわ。リクくんのことが好き過ぎて、可愛いくて愛の強い同担見てると不安だった。でも最近、リクくんを好きな人が沢山いるから、リクくんは活動を続けられて、もっと挑戦ができるってことに気づいた。だからうち、同担拒否克服する。
…許して欲しいとかいわないから。」
宮城さんは本当はいい人なんだろう。
俺はまた図書委員としての職務を果たすべく、カウンターにいた。
相変わらず図書室には人がいなかった。
隣には宮城さんがいた。
「ねえ、あんたとあいねる、まだ付き合ってないの?」
「…は?」
思わず返却手続きのおわった本を落としそうになった。
「…その事実は菊田さんが否定してくれたよ?」
「あんなん噂を避けるための嘘に決まっとるっしょ。あいねるが最近あんたのこと目で追ってるの気づかないの?」
最近の俺はあまり菊田さんの方を見ないようにしていた。
…自分の本当の失恋を認めるのが嫌で。
「早く付き合ってくださいって言ってきなよ。ほら、噂をすれば。」
宮城さんが顎をしゃくった。その方向を見るとドアから菊田さんが入ってくるところだった。
「やっほ、鈴花ちゃん。」
「やっほ、あいねる。」
「ねえ、海人くんを借りてもいい?」
「いいよ〜。川島、図書室はうちが閉めとく。この前のお礼。」
「は?おい。」
俺は本じゃないんだぞ。
「いこ、海人くん?」
菊田さんは満面の笑みを浮かべていた。
俺たちは人のいない空き教室にやってきた。夕日が眩しいほどに教室をみたしていた。
「…わたしね、リクくんのリアコやめるの。」
「えっ?」
びっくりした、あんなに好きだったのに。
「…もう、いいの?」
「だって、他に好きな人が出来たから。」
その言葉に俺は息を飲んだ。
「その人はね、どんなわたしも代わりなんていない、素敵なわたしの一部だっていってくれた、最高の人!!…ちょっとダサくて、流行りに疎い、芋男だけど。」
「え…。」
それって……
菊田さんは俺に一歩近づき、俺の腕を掴んだ。
「わたし、海人くんのことが好き。だからわたしのだけのための彼氏になって?」
彼女の頭が、俺の胸にコンっと当たった。
「海人くんの告白、今までにされたどんな告白よりも嬉しかったよ。」
その無邪気な笑顔はもう答えが分かっているかのようだった。
俺は更にびっくりした。あんなにイケメンで歌も上手くてかっこいいリクくんのことが好きだった菊田さんが、俺のことを、芋男で読書オタクで流行りに疎い俺のことを好きだといってくれるなんて。
でも、彼女が本気を出して伝えてくれたんだったら、俺も伝えたい。
「……小悪魔っぽいところもあるなんて、愛音さんは最高の俺だけの彼女だな。」
俺は照れているのを隠しながら、愛音さんを優しく抱きしめた。
仮面の君に恋してる。 御宅之スピカ @otakunosupika
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