第8話 ゆめ、咲う


 暖かないい匂いのするひだまりのなか。

 そこでぼくは窓の外をみてああ、とだけ呟きました。


 太陽の光がいっぱい射し込んでくる、気持ちのいいカフェのテラス席。


 そこそこ賑わいのある歩道の街路樹のソメイヨシノは、それはそれは満開の笑みを浮かべておりました。それはそれは幸せな光景で、ぼくも自分の顔が緩むのを感じました。



「すみません、遅れてしまって」



 ぼくが再び瞼を閉じたとき、女性の声が上か降ってきて、はっとして声の方を見上げました。



「ああ、いや平気です。電車止まってたんですか染井さん?」


「はい……その、人身事故、でして」



 ぼくは小さくあー。と言葉を漏らします。

 彼、もしくは彼女はあの通りで足を止めてしまったのだろうか。

 そうしたら、あの管理人の彼女は今も人の形でいるのだろうか。



「すみません、吉野さん。せっかくの初打ち合わせだっていうのに」


「いやその辺はまぁ、大丈夫です。……今日は次の題材考えてきたんですけど」


「はい!聞かせてください!」



 水をテーブルに置こうとした、ファミレスの店員さんはびくりと肩を跳ねらせます。

 それに気付かず染井さんがテーブルを叩くのでぼくも、思わずいっぽ退いてしまいます。


 そんな染井さんの情熱に照れなのか、笑みが浮かびます。もちろん、嘲笑なんてものではありません。



「大人向けの絵本を描こうと思うんです」



 染井さんは、面白いですね!! なんて相槌を打ってどんな話にしましょうか、と顎に手を当てます。


 ぼくは思い切って「あの! 」と、声をあげます。



「夢のおはなしって、どうですか?」


「ゆめ?将来の夢〜?見たいなあれですか?」


「それも含みたいんですけど、その寝てる時に見る夢と……理想はどうでしょうか」



 さっきも通ったようなあの通り。

 眠るたびに通り過ぎるような気がしているのは、気のせいなんかじゃない、と思うのです。







 だって。ぼくの脳裏には、まだあのあおがこびりついついて離れない。



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ゆめわらう。 入相 @harukujiracco

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