風紀委員長の篠宮さん
盛山山葵
風紀委員長の篠宮さん
「ダメですよ、
ゲェ。風紀委員長の
あれ? 篠宮じゃん。
そう思っていた日の帰り道、私は篠宮を見かけた。歩く方向的に、どうやら夜の繁華街に向かっているみたいだ。私は美術部で、篠宮はおそらく風紀委員の仕事で夕方まで学校に残っていたから、もう日が沈みかけている。篠宮、こんな所でなにしてんだろ。
気になった私はこっそり篠宮のあとを追いかける。
そしてたどり着いた先は、とある居酒屋だった。
篠宮は迷うことなく店の中へと入っていった。
一方私は、……めちゃめちゃビビっていた。
だって居酒屋なんて行ったことないし。おっさんたちがお酒飲むとこだよね? なんか怖いな。
篠宮は
怖いけど……めっちゃ気になる。もしかしてあのマジメな風紀委員長の篠宮がお酒飲んでるかもしれないってことだよね!?
ど、どうしよう。せっかくここまで来たし、ちょっと中覗いてみようかな。少しだけ、篠宮がここでなにしてるか、ちらっと見るだけ。
変な人に絡まれませんように、と祈りながら店の中に入る。
カラン、カラン。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「あ、えと、一人です」
「こちらにどうぞ〜」
カウンター席に通される。
そ、そうだよね。一人だし、普通カウンターに通されるよね。カウンター、ちょっと怖いな。隣に知らない人いるし。
「ご注文はお決まりですか?」
な、なんか頼まないと。お酒、はさすがにまずいよね。あ、ウーロン茶もある。これなら大丈夫かな。
「う、ウーロン茶ください」
「かしこまりました〜」
ふう、案外なんとかなりそうで良かった。
そうだ、篠宮探さないと。
あたりをキョロキョロ見回すけど、篠宮の姿は見当たらない。制服着たままだったからすぐに見つけられると思ったんだけどな。
「君、高校生〜?」
ヤバ、私も制服着たままだった。こんなん完全に悪目立ちじゃん。
「もしかして不良? お酒も飲むの? おじさんともっといい店行こうよ、
となりに座っている小太りしたおじさんがグイグイ話しかけてくる。
怖い。
どうしよう。なんか言わないと。でもなにを言えば……。
頭が真っ白になる。誰か――。
「お客様、大変申し訳ありませんが、他のお客様のご迷惑になる行為は慎んでいただけますか」
丁寧な口調でありながら、しかし有無を言わせぬ力強さを持った声で告げたのは――。
「篠宮……!」
「秋山さん、こちらへ。店長、少々持ち場を離れますがよろしいですか?」
事情を察したらしい店長は右手を軽く上げて返事をし、すぐさま作業に戻っていった。
それを確認した篠宮に連れられ、スタッフルームに入る。
「篠宮~」
私は、腰を落ち着けるやいなや篠宮に泣きついた。
「篠宮、ここでバイトしてたの?」
居酒屋のエプロンを着た篠宮に尋ねる。
「……そうよ」
「ええー! 意外。うちの高校ってバイト禁止されてるのに」
「……」
篠宮の気まずそうな顔を見て、私はある可能性に思い至った。
「ごめん。……もしかして特別免除?」
うちの学校は
もしかしたら地雷踏んじゃったかも、と思っていると、篠宮があわてて否定する。
「違う、違う。そんなんじゃないよ。私は、ちょっと推し活の資金が足りなくて……」
いつもはハキハキとしゃべる篠宮がゴニョゴニョと言う。
「ええぇぇぇー!! あのマジメな篠宮がっ!?」
私は今日一番の衝撃を受けた。
「だって、今日私に服装のことで注意したばっかじゃん。それに篠宮が推し活ってあんまイメージないし」
「あなたの服装はあからさまに校則違反だったけど、私はバレないようにやってるからセーフなの。それに、私だって推しくらいいるわよ」
堂々と言いきる篠宮に、私は開いた口が塞がらない。いったいそれのどこがセーフなんだ……。
でも、今までは苦手だと思っていた篠宮になんだか親近感が湧く。
「だけど、私にはバレたじゃん」
「そうだけど。もしかして、みんなにバラしたり……?」
普段は強気な篠宮が、今は妙に弱々しくて可愛い。これがギャップ萌えというやつなのか。
なんて現実逃避しかける私だったが、ふといいことを思いついた。
私は、にやり、とできるかぎり悪い笑みを浮かべて篠宮に宣言する。
「じゃあ、私もここでバイトしよっかな」
風紀委員長の篠宮さん 盛山山葵 @chama3081
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます