(11) 『かおる、今死んで、って言ったら?』
何日かの後、退院しふらふらになりながら学校に行った。もしかしたら、ひまりが普通に座っているかもしれない、そう思ったから。でもいなかった。それどころか学校中の人達が人殺しと罵ってきた。終いには殴られ先生達が駆けつけていた。
でも気にも留めずに図書室に行く。いつもは五分もかからないのに三十分もかかってしまった。
図書室に行ってもひまりはいない。いつもひまりが座っていた場所に腰掛ける。図書室特有のかび臭い匂い。窓の隙間から吹き抜けるそよ風、カーテンの隙間から透き通る日差し。その全てがひまりを彷彿とさせ息が吸えなくなるくらい泣いて泣いて泣き続ける。やがて床のシミが水たまりになっていく。
【香織君、君は、これから、毎日、放課後に図書室に来て私の小説を手伝うんだよ】
ふとひまりの声がした気がして振り返る。けれど、どこにもいない。
ふとひまりの匂いがした気がして体を戻す。けれど、どこにもいない。
ふとひまりの姿が見えた気がして視線を追う。けれど、どこにもいない。
【上を見ることも大事だけど、時々下も見ないとだめだよ。だって見落とすから。下にも大事なことがきっとある】
急に頭の中でリピートされる。いや、きっと今ここにいて耳に囁いているんだ。
滲む視界の中、下を見てみると、何もない。必死に探す。椅子をひっくり返してみると――あった。一枚の便箋が。テープで張り付けられていた。
『かおるへ よく見つけたね。さすが』
と書かれていた。封を開け中を見ると、一枚の紙が入っていた。震える手で広げる。何時間もかかって広げると――
そこには綺麗な字で一行綴られていた。
『かおる、今死んで、って言ったら?』
ひまり――
【私があなたを「現世にいて本当に良かった。無駄じゃなかった」って死に際に思えるように支えるから】
【かおるだから救いたい、そう思ったから】
歪んでいた視界の奥にひまりの誇りきった笑顔が見えた。斜陽に照らされて浮かび上がるほんのり赤い頬。
「大好きだよ」
そう言った気がした。
ぼくもだよ。ひまり――
死を描く うよに @uyoni
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