第42話 女子高生メイドにとって、お金とは?

 レースで優勝した4ケ月後。


 俺は夢花とのりタン先生に挟まれて、とある乗り物の座席に収まっていた。


 2人とも、やっぱりメイド服姿だったりする。


 俺の負けだ。

 もう彼女達の服装について、とやかく言うのはやめよう。




「ふえ~、すごいです~。普通の飛行機と、全然変わりません~」


「もっとSFチックな乗り物かと思っていたわ。本当にこれで、月まで行けるの?」




 俺達が乗っているこれは、宇宙飛行機スペースプレーン


 打ち上げ用ロケットなどを使わず、電磁誘導で加速してレールから射出。

 そのまま機体のエンジンだけで大気圏を突破し、月まで飛べるらしい。


 おまけに客室も、快適そのもの。

 うわさに聞く、旅客機のファーストクラスみたいだ。


 俺達乗客は、緊急時以外宇宙服を着なくても大丈夫なんだとか。


 すごい技術だ。

 



 このスペースプレーンは、俺がクラウドファンディングで出資したプロジェクトから生まれた。


 夢のある話だったので、積極的に投資を続けてはいた。

 しかしまさか、こんなものを作り出すとは……。


 いつの間にか、民間人向けの宇宙旅行会社も設立されていた。

 そちらにも何となく出資していたら、気付いた時には俺がオーナーだ。


 すでに月までのテスト飛行は終了していて、この便はお客さんを乗せての初飛行。

 6日間かけて、月の周りをぐるっと1周して帰ってくる日程だ。


 プロジェクト最大の出資者であり、宇宙旅行会社のオーナーである俺は特別に乗せてもらっている。

 同行者として、夢花とのりタン先生の座席も確保してもらった。


 他のお客さん達は、物好きなお金持ちのみなさんだ。

 とてつもない代金を支払って乗っている。

 1人当たりの料金は、約300億円。

 

 


「みなさ~ん! あたし達が、民間人初の月旅行者ですよ~! どんな気分ですか~!?」


 ビデオカメラを回しながら、夢花が周りの乗客達に呼びかけた。

 もちろんこの映像も、地球に帰ってきてから動画配信する。


 ひんしゅくを買うかと思ったが、みんなノリノリだ。


 あちこちから「最高で~す♪」、「ドキドキしてま~す♪」といった嬉しそうなコメントが返ってくる。


 みんなはしゃいでいるのがよく分かる。


 その中でも特にはしゃいでいるのが、ウチの暴走メイドだが。




「夢花、やたらテンション高いな」


「そりゃそうよ。宇宙旅行なんて、夢いっぱいな話じゃない。あたしは夢のある話が大好き。名前に『夢』って入ってるのは、じゃないわ」


 ああ、そうか。

 俺はずっとえんどう夢花を、「欲望に忠実な少女」だと思っていた。


 だけどちょっと違うのかもしれない。


 夢花は欲望に忠実なんじゃなくて、「夢に素直」な子なんだな。


 俺にやたら金を使わせようとする癖があるが、こいつが自分の私物を買ってくれとねだったことはない。

 バイクのガンマは俺の所有物。

 誕生プレゼントのフェラーリも冗談だったしな。


 思えば誕生プレゼントにフェラーリをというのは、乗ってみたいと言っていた俺に買うきっかけをくれようとしていたのかもしれない。




「お前さ、大学には行かなくていいのか? 学費は俺が出すぞ? 東大に行けるぐらい、学力あるんだろ? こないだ家庭訪問に来た先生が、もったいないって泣いてたじゃないか」


「パス! 全然興味無い! 今は宇宙旅行の方が大事よ。大学は、行きたくなった時に行くわ」


「……進学の意思がないのはわかった。しかしプロレーシングドライバーへのお誘いまで断ったのは、もったいなかったんじゃないのか? GT500って言ったら、レース界の花形だぞ?」


「え~。だってあたしの相方、はやさんって話だったんだもん。ご主人様がパートナーなら、乗ってもよかったんだけど」




 夢花は不敵に笑いながら、俺にビデオカメラを向けてきた。




「あたしに言わせれば、ご主人様のそばを離れるほうがよっぽどもったいないわ」


「そりゃ、バイトでも時給2万円だしな。高校卒業して正式にメイドとして働くなら、年俸2億ぐらいは出そうかと……」


「ちが~う! お金の問題じゃないの! ご主人様の近くにいれば、ワクワクするできごとが待っている。これまでも……そしてこれからもね。あたしに夢を見せてくれってこと。あたしはご主人様が夢を叶えるのを、全力でサポートするから」




 夢花とは反対側の座席から、のりタン先生が身を乗り出してきた。




「夢花ちゃん、抜け駆けはずるいです~。わたしもかなおいさんの夢を~、お手伝いしますよ~。お望みとあれば世界征服だって~、やってみせます~」


「そんな物騒な願望は、持ち合わせていません」


「ふふふふ~。やりたくなった時は、言ってくださ~い。金生さんは思うがままに~、女神様の加護を振るえばいいんです~」


 ログインボーナスの件は、先生やアレクセイにも話した。

 夢花にもきちんと説明はしていなかったので、加護を得た経緯なども詳細に語って聞かせた。


 笑い飛ばされるかと思ったが、あっさり納得されて拍子抜けだ。




「そんな欲望の赴くままにお金の力を振るって、女神様から加護を没収されたりしませんかね?」


「大丈夫なんじゃないですか~? 欲望の赴くままと言っても~、金生さんは邪悪なお金の使い方なんて絶対にしません~。女神様もそれがわかっていて、金生さんを使徒にしたんだと思います~」




(あなたの魂は、私の加護を授けやすい形をしていたのです)




 加護を授かったあの日、女神アメジスト様はそう言っていたな。


 あれは単なる相性の話かと思っていたが、俺の魂が邪悪でないのかどうかを見られていたのかもしれない。




「サハラ砂漠の緑化プロジェクト~、環境に優しい水素エンジン自動車の開発促進~、食料不足な国への大規模支援~、新薬や医療ロボット研究への出資~。どれも素晴らしいお金の使い方です~」


「『お金を使って経済を回せ』という、アレクセイの教えに従っているだけですよ」


 そういえば、アレクセイを連れてこられなかったのは残念だ。

 彼はもう、執事じゃない。


 新たに雇った執事やメイド達を統括する、「家令」のポジションについてもらっている。

 新人教育で忙しいため、今回の宇宙旅行には同行できなかった。




「『何にお金を使うか』を、判断したのは金生さんでしょう~? 誇っていいと思いますよ~?」


「そうよそうよ。あたし達のご主人様は、最高なんだから」




 客室内に、ポーンという優しいチャイムが鳴り響いた。


 シートベルト着用のサインだ。




 ベルトを着け終わると、機体が加速し始める。


 座席前方のモニターに、外の景色が映し出されていた。


 すさまじいスピードで流れていく。


 最初は大地と水平に加速していたが、レールがカーブして機体は空を向いた。


 さあ。

 青空を突き抜け、星の海へと出発だ。




 加速Gは思ったほどキツくはなく、俺は夢花と会話する余裕すらあった。




「なあ夢花。お前ってお金大好きだけどさ、お前にとってのお金って何だ?」




 グレーの瞳が、キラリと輝く。


「決まってるじゃない」


 お金大好き女子高生メイドは、首から下げた「ドリームフラワー」に触れながらこう答えた。






「夢を叶える翼よ」






【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】


―――第1部、完―――





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【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~ すぎモン/ 詩田門 文 @sugimon_cedargate

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