第4話 金髪の少年
「良い判断だったね。お疲れ様」
微笑む父親に声を掛けられて、カトリーナはナイフ男の拘束を解いた。その瞬間に金髪の少年も、部下に保護される。完全に制圧され、拘束された盗賊たち。馬車を動かしていた御者は、重傷では無いが手傷を負っていた。
襲撃された馬車を走行可能にするために、装備の点検や修理を行う部下たち。カトリーナは震える少年の服から埃を払い、立ち上がらせた。
「ケガはないか?」
「た、助けて下さって、ありがとうございます」
豪奢では無いが清潔な服装。黄金色に輝く髪と蒼い瞳。洋物のショタ好きには、ご馳走の部類に入る容姿だった。年齢は少女と同じか、少し幼いのかもしれない。彼女より少し低い、華奢な身体を震わせながらも、健気にカトリーナに頭を下げる。
「貴方はどうして、そんなに強いのですか?」
「別に強くは無い。見た目が子供だから、盗賊も油断しただけだ」
少年はナイフ男の、あらぬ角度に曲がった足に目をやった。
「……物凄く強いと思うけど。僕の名前はクリス・ステュアートです。貴方のお名前は?」
「カトリーナ・フレミングだ。クリス。君はどこへ向かうつもりだったんだ」
「エイディーンです」
「アルバの首都だな。ここからだと、まだ距離がある」
スコットが馬車の様子を確認して、少年に話しかける。
「どうやら移動は可能になったようだ。御者も怪我をしているようだから、我が家で態勢を整えた方が良い」
「重ね重ね、お世話になります」
クリスは品良く頭を下げた。彼は単騎で乗馬することが出来ないようなので、応急処置を施して、部下が御する馬車に乗り込む。その姿を見ながら、カトリーナは父親に声をかけた。
「彼は王族なのかな?」
「どうしてそう思うのかね? あんなボロ馬車に、乗る王族など居ないだろうに」
「エイディーンに向かうステュアート家の人間だから」
「……それが本当なら、話は変わってくるな。ここは
父親は黒毛の大型馬に、ヒラリと跨った。
草原地帯を離れ、フレミング家の屋敷があるキャニックにたどり着く。少年と御者の話を聞いた瞬間、屋敷はパニック状態となった。
「驚いたな、本物だ」
スコットは肩を竦める。ステュアート王には、多数の子女が存在した。正腹・妾腹合わせて二十数名に及ぶ艶福家である。その為、王位継承問題が複雑になりすぎ、これが問題となり始めていた。しかし王都で猖獗を極めている伝染病で、王族にも死傷者が続出したのである。
本来なら王位継承順位が低すぎるクリス。彼は首都から遠く離れ、飛び地である小領土の主として一生を過ごす筈だった。彼は三日前にエイディーンへ帰還する命令を受け取り、取る物も取り敢えず首都に向かう最中だったのだ。
そうと分かれば是非もない。手傷を負った御者は屋敷に残し、フレミング家の馬車でクリスを王都に送る事が決まった。キャニックから馬車を飛ばして、王宮までは半日の距離である。
しかし夜間の移動は危険であるため、大事を取って翌日の早朝に出発する事とした。また早馬を出して、クリスの詳細を予め城に前触れする。
「本当に何から何まで、お世話になって申し訳ありません」
「気にすることはない。フレミング家として、未来の国王候補に恩を売っているだけだ」
淡々と話す少女のセリフを聞いて、父親は肩を竦めた。
「この子の言う通りだ。恩に感じているなら、後から大きく返してくれればいい」
「……でも」
少年は言葉を切って、二人を見つめた。
「貴方たちは馬車に乗って居たのが王族だと知らないで、僕を助けてくれました。自領を誠実に守っている領主が居る事を、僕は忘れません」
カトリーナとスコットは苦笑する。
「そんなに堅苦しく考えなくていい。先ずは無事で良かった。さぁ、明日は早いから夕飯でも食べながら話そう」
三人は食堂へと移動した。通常領主階級になると、食事は使用人が作る。しかしフレミング家では妻のケイティが主とした料理と作るのが日常だった。カトリーナの母親でもある彼女は、満面の笑みで彼らを迎えた。
「さぁ、お待ちどお様。お口に合わないかもしれませんが、沢山召し上がってくださいね」
食卓にはハギス(羊のホルモンのソーセージ)やジャガイモのパンケーキ、季節の野菜などが所狭しと並べられていた。一般家庭に比べれば豪華だが、領主一家の食卓としては少し質素かもしれない。それでもクリスは目を輝かせた。
「こんな御馳走久しぶりです」
少年の過ごしたソーサーという寒村は、アルバ最北部の海岸地域だった。人口も農作物の収量も少ない。辛うじて諸島部や外国との貿易港を擁しているのが、村の収入の大半であった。海産物は取れるが加工技術が乏しい事から、フィッシュアンドチップスのような料理しか提供することができなかった。
領主であるとは言え流れ者のクリスは、首都とは食文化が異なるソーサーで苦労をしていたようだ。
慌てて食べたハギスを喉に詰まらせ、目を白黒させるクリス。カトリーナが背中を叩くと、何とかハギスを呑み下した。彼女から紅茶を受け取ると、ため息を付く。
「そんなに慌てて食べなくても、母上の料理は逃げやしないぞ」
「ゴメン。本当に美味しくて」
フレミング一家との夕食は和やかに進んで行った。
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