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 少女は今日もそこにいた。昨日も一昨日もそこにいた。先週も先月もそこにいた。何より三年前から欠かさずそこにいるのだから、今日も当然いるはずだった。


 中学の時間割は週ごとに決まっていて、何か特別な事情がない限りは絶対的であった。それで自ずと、俺が集中力を欠いてもよい時間も固定された。

 例えば国語の授業は、常に誰かの(それは時に登場人物で、時に作者である)内面を理解することが目的だと謳っておきながら、実際は印刷された膨大な文章の一部を手書きのものに移行する作業に過ぎない。英語の授業は、言語というものの持つ幅を狭め、会話表現としてではなくあくまで用意された模範解答に合わせて学生の脳を矯正する時間だ。これらを、勉学を怠るための言い訳と誤解してほしくない。本質を与えないくせにレッテルだけで教育を主張している学校への、ささやかな抵抗である。

 退屈しのぎに窓の外を眺める機会が増えて、俺は少女の存在に気づいた。故にもしかすると、もっと前から少女はいたのではないかと時々思う。


 少女はいつも窓のへりに腰かけていた。校舎はコの字型に曲がっていて、それでいうと「コ」の二画目の先端あたりに俺の教室があり、一つ目の曲がり角の少し手前あたりに少女がいた。加えて彼女は俺よりも一階上にいた。俺が少女を見ることはあっても、少女が俺を見ることはない。彼女はいつ見ても変わらずそこで、楽しそうに足をぶらぶら揺らしていた。

 唯一の懸念点はその足が片方ないことだった。しかし少女はそんなことを気にする様子もなかった。かくいう俺もそういう部分に惹かれて少女を見ているのだと思うし、あるいは俺に見える少女だから足がないような気もする。両足があれば、少女はきっとあんな風に笑っていない。

 少女は今日もそこにいた。ここでも、あそこでもなく、そこにいた。

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