第38話 宮子の恋心が風呂に響いた


 遥が溢した紅茶により、腹部から下半身にかけてびしょびしょで、さらに砂糖入りだったため甘い匂いとベタベタが気になることから風呂を借りることになった……のだが。


「今回担当するのは宮子です。それではまず下半身から」


 風呂場の引き戸を開けると身体にタオルを巻いた宮子が洗面器の中で泡を立てながら待っていた。

 俺はすぐに下半身を手で隠す。


「お、おい。何やってんだ宮子」

「え? 雄一くんはお客様だし、お客様がお風呂に入るなら色々と洗わないとと思ってー」

「出てけ! おい遥! 美波!」

「二人は来ないよ? 美波はさっき乳殴りでボコしたし、遥は雄一くんの着替えを貸す約束の引き換えで入ってこれないから。こうなった以上、二人っきりでお風呂っ」


 俺は全力で宮子の腕を引っ張り上げると風呂場から追い出し、入れ替わるように風呂の中に入って風呂の引き戸を閉じ、ちゃんとロックをかけた。


「もー! 雄一くんのツンデレ! グラドルのわたしからお風呂入ってあげるなんて全男子が垂涎するイベントなのに!」


 宮子は引き戸をドンドン叩きながら不満を口にする。


「うるさい。賃貸なんだし、引き戸壊したらヤバいだろ? そこで大人しくしてろ」


 宮子は風呂の引き戸の前でわざとらしく「すん」と呟くとやっと静かになった。

 さてと、シャワーシャワー……。


「はぁーあ。どうせ雄一くんはさ、美波みたいなクール天然巨乳キャラとか、遥みたいなツンデレ幼馴染貧乳キャラの方が好きなんだよね? わたしみたいな顔良し胸良しスタイル良しのキャラは全てにおいて恵まれすぎてるから短所がないことで目立った特徴なくてつまんないとか思ってそうだし」


 宮子はあざとさ0の低い声で淡々と愚痴をこぼし始める。

 お前に特徴がないとか言い出したらこの世の人間の8割がモブと化すんだが。


「そうですよそうですよ。どうせわたしみたいな長女は妹たちが雄一くんのこと好きとか知ってるからこそ、お姉さんとして譲ってあげるポジションに落ち着くのが関の山だし、このまま雄一くんは美波か遥とハッピーハッピーハッピーなエンディング迎えてわたしはその裏で闇堕ちしてホスト狂いになってホストに死ぬほど貢いだのに名前間違えられてブチ切れてネットのおもちゃにされるのが目に見えてますよはいはい」


 ほとんどシャワーの音で聞こえなかったが、とりあえず意味の分からない愚痴を並べていることだけは分かった。


「あのさ、宮子」

「なーに? わたしじゃ物足りないから美波と変われ? 酷いよ雄一くん」

「そんなこと言ってねえだろ! なんでそんなに拗ねてんだよ」

「だって……今日、雄一くんを呼んだのはわたしなのに、裸エプロンに包丁でお出迎えはダメとか、さっきもいつの間にか遥とイチャイチャしてたし」


 どうやら完全にいじけモードの宮子。

 この三姉妹の面倒な所はすぐにいじける所だ。


 美波もそっけない事を言えばすぐに俺のことを「枝豆ちん●野郎」と言ってくるし、遥は……言うまでもなくギャーギャー騒ぎ出す。


「雄一くんって昔からそう。砂浜ではわたしが一番とか言っておきながら遥と将来の約束してたり、美波とはいつの間にか友達になってたり。三姉妹で一番唯一くんに好きな気持ちを伝えてるのはわたしなのに見向きもしない。グラドルから好意寄せられてたら断れないでしょ普通。ヤリ目で適当に付き合ってくれるだけでもわたしは雄一くんなら幸せなのにそれにも応えてくれないしさ」


 あの二人のいじけはまだ優しいと思えるくらい、宮子のいじけはかなりウザい……というかもはや怖い。

 貧乏性のカラシチューブ並みに、無理やり腹の底から愚痴という愚痴を捻り出してやがる。


「悪いけど、俺のことを好きって言われても、俺はお前と付き合う気はないからな」

「……なんで?」

「な、なんでって……お前は、ちょっと怖いし」

「怖い? 怖くなければ付き合ってくれるの? わたしが普通の女の子になれば付き合ってくれる?」

「だから、その質問が怖いんだよ。てか、重いし」

「重い? わたし●●kgだよ! 16歳の女の子の体重としてはかなり軽いし!」

「物理的な話じゃねーから! と、とにかく……付き合うとか、現実的じゃない」


 もう過去のことは正直気になっていない。

 3人ともあの頃とは変わっていて、今は普通に話せる関係にもなった。

 宮子もそうだ。

 昔は俺をいじめることに興奮していた類の異常者なので、まだ打ち解けているわけではないが、昔よりは何を考えているのかよく分かる。


「なら、ゆっくりでいいよ雄一くん。もしもわたしのことが好きになったら雄一くんから告白して?」

「は? な、なに恥ずかしいこと」

「雄一くんがわたしに告白してくれるまで、わたし、待ってるから」

「宮子……」

「あ、でも他の女を選んだらどうなるか分かるよね? ね?」

「ほぼ強制じゃねーか!」

「…………」

「あれ、宮子?」


 風呂から出た時、宮子の姿はもう無かった。


 カメラとか無いよな?

 俺は風呂場のありとあらゆる場所を確認してから身体を拭いて着替えるのだった。




——————————

完全新作ラブコメ!

『保健室の無口な天使は今日も俺にだけ甘えてくる。〜保健室登校の天使ちゃんに優しくしたら懐かれた件〜』

https://kakuyomu.jp/works/16818023212611043285/episodes/16818023212611257086


最高に甘々なラブコメなのでぜひ。

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