第37話 三姉妹はうるさい
——あれから待つこと10分。
美波と二人で玄関前にボーッと立っていたら、急に玄関のドアが開く。
「お待たせ雄一、もう大丈夫だから」
美波と同じようなTシャツにホットパンツというラフなスタイルで出てきた遥。
玄関の床マットの上では、ちゃんと服を着た宮子が正座させられていた。
「ありがとな遥」
「べ、別に、あたしは雄一のはらわたがひん剥かれても別に良かったんだけど、事故物件になるのが嫌だっただけで」
「遥姉さん、そのツンデレは激ヤバ」
「うっさい! ツンデレじゃねえし!」
休日でも相変わらず遥は怒ってばかりで、平常運転だった。
「とにかく入りなさいよ」
「あ、ああ」
俺は三つ子姉妹が住むマンションの一室に入る。
遥は先にサンダルを脱いで玄関から上がる。
なんか遥の服……美波と同じだけどやけにブカブカじゃないか……?
「なに?」
「いや、遥と美波は部屋着が同じなんだと思って」
俺は美波のホットパンツと遥のホットパンツを交互に指差しながら訊ねる。
「遥姉さんは、わたしのお下がり着てるだけ」
「お下がり? 三つ子とはいえお前の方が妹なのに?」
「ほら、Tシャツの胸元がブカブカでしょ? ホットパンツもお尻のところ隙間ある」
「ああ、なるほど」
「なるほど、じゃないわよ!」
遥は怒鳴りながら俺のほっぺたをつねった。
「そうやってあたしのスレンダーな身体をイジるのやめなさいよ! 宮子も美波もデブだから服が大きくなるの! デーブデーブ!」
遥は美波と宮子に向かって子供みたいな反撃をする。
「でもさぁ遥? この世界はむっちりした子の方が需要あるんだし、豊満至上主義だと思うよ? きっと雄一くんのオナ●ットランキングだって、1位はダントツのわたしで1ヶ月に4000回だと思うし、2位は美波の20回だったし」
「変なランキングを捏造すんな!」
「ユウ……わたしで、シてるの?」
「するかっ!」
「雄一。ほんと最低」
「あのな……はぁ。お前らがそんなもてなしするならもう帰るからな」
俺が帰ろうとすると、宮子がラグビーのラガーマン並みのタックルでガシッと俺の腰元に抱きついてくる。
「ダメだよ雄一くん。この家に入った以上、もう帰れないから」
「おい宮子、そろそろ警察呼ぶぞ」
「えっ!? それって一緒に監獄に入ってくれるってこと? つまり結婚?」
「それを結婚とみなしたら世も末だ。あとムショに行くのはお前だけだからな」
俺は宮子を振り払うと、靴を脱いで玄関に上がる。
「お、お邪魔します」
「はいはい。リビングはこっちだから」
遥に案内されて、俺は廊下をまっすぐ行った先にあるリビングに移動する。
「うぉ……なかなか広いんだな」
ざっと16畳ほどの横幅のあるリビング。
大型テレビにデカいソファがあって、オープンキッチンの前には大皿が何個も並べられそうなくらいの大きな食卓が置かれている。
隅にはちょっとしたトレーニングスペースもあって、トレーニング器具が雑に置かれていた。
「このダンベルとかストレッチマットは誰が使ってるんだ?」
「わたしわたしー」
「宮子が?」
「そりゃ、グラドルは身体を魅せる仕事だから。別の部屋にはバーベルもあるよ」
「だから無駄に力強いのか」
さっきもラガーマンみたいなタックルしてきたし。
「わたしは筋肉じゃなくて、美ボディを作ってるの! あと、雄一くんが大好きなおっぱいも♡」
宮子は自慢の胸を無理やり上下に揺らしながら自慢げに語る。
「……宮子姉さん、お下品な乳揺らしやめて」
「はあ? なら美波も揺らしてみなよー? 美波の場合はデカすぎで揺れないのかしら? ぷぷっ」
「は?」
さっきまでは静かだった美波がプチンと来たからか、宮子の胸を思いっきり叩いた。
「や、やったわね……このっ」
そこからはお互いの爆乳を叩き合う爆乳バトルが勃発。
ほんと、こいつらには客人が来てるという意識はないのか?
「乳殴り相撲が始まったわね」
「はあ?」
「こうなったらどっちががギブアップするまでやめないわよ」
「こいつらっていつもこうなのか?」
「まあね。あたしと喧嘩するよりもこの二人の方がお互い毎日喧嘩してるわ」
美波と宮子がバトルしている間に、俺と遥はオープンキッチンの前にある食卓で並んで椅子に座る。
「そうだ。お前らとはいえ菓子折りの一つでもと思って道中でフィナンシェ買ってきた」
俺はリュックに入れていた紙袋を遥に手渡す。
「"お前らとはいえ"は余計でしょ……でも、わざわざありがと」
遥はフィナンシェの袋を受け取ると、オープンキッチンの前に立った。
「紅茶淹れるから待ってて」
「おう」
遥って昔からツンケンしてるけど、やっぱこの三姉妹の中では1番の常識人だよな。
あっちの二人はいつまで経ってもお互いの乳袋を殴り合ってるし……ほんと、何してんだか。
「雄一、あの、さ」
遥は紅茶のカップを俺の前に置くと、紅茶を淹れながら小声で話しかけてくる。
「こうやって食卓で一緒にお茶するのって、ちょっとだけカップル、みたいよね?」
「は? 何が?」
「はぁ……あーもう! や、やっぱなんでもないわよ! あっ」
カップからダラダラ溢れた紅茶が、俺の服に紅茶がかかった。
「おまっ、よそ見しながら紅茶淹れるから」
「ご、ごめんっ」
珍しく遥はしょんぼり顔で謝る。
すると、遥の背後から真っ赤になった手が遥の肩をトントンと叩く。
「もー、大丈夫よ遥! 雄一くんのパンツとズボンならストックあるし! 元気出しなさい!」
乳殴りで美波に勝ったらしい宮子が、俺の外着でよく使うズボンと、俺のトランクスを…………持って…………は?
「どこで仕入れたんだよそれ! おい!」
「あ、ありがと、宮子。今日だけは礼を言っておくわ」
「お礼なんていいわよ。その代わり雄一くんをお風呂に入れるのはわたしの仕事ね?」
「話を勝手に進めるなよ!」
俺の服の出所は不明なまま、半ば強引に風呂場へ連行されるのだった。
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