第36話 部屋に入れない件について


 俺はマンションのエントランスから美波に案内されて3姉妹の住むマンションの部屋にやってきた。

 インターホンの上には【城田】という表札と、NH●のシールがペタッと貼られており、『宗教は興味ない』という謎のステッカーも貼られていた。

 や、やけに生活感のある玄関になってるな。

 ここは築数年の新築マンションらしいので、外観はかなり綺麗だし、きっと中も綺麗なのだろう。

 いや、この3姉妹なら汚部屋になっている可能性も捨てきれないな。

 しっかし、美波たちはこんなに良いマンションに住んでいるのか……。

 城田3姉妹が住んでいる10階の部屋はこの部屋のみの部屋となっていた。

 騒ぎたい放題だな、こりゃ。


「お前たち、なかなか良いマンションに住んでるんだな?」

「宮子姉さんがグラビアで稼いでるから。私たちを養ってくれてる」

「あんな激ヤバ長女でもちゃんとお姉さんしてるんだな……」


 ほんとはあまり感心したくないが、宮子は実際グラビアアイドルの方でかなり人気を博しており、仕事も増えてきているらしい。

 どれくらい収入があるのかは知らないけど、これくらい良いマンションに3人で住めるだけの額は稼いでいるのだろう。

 このマンションはセキュリティもしっかりしてるみたいだし、その辺はあの変態宮子でも考えて選んでいるんだと思われる。

 美波がインターホンを鳴らすと宮子がインターホン越しに『山』と言い、美波が『川』と返す。

 なんだその秘密基地みたいな暗号……絶対今の要らなかっただろ。


「ユウ、早く入って」

「あ、ああ……」


 美波に促されて俺は玄関のドアノブに手を掛ける。

 いや、ちょっと待て。

 いわばここは宮子たちの要塞。

 そんな要塞に踏み入るということは相応の覚悟がいるってことだ。


 以前、宮子は俺の家に泊まった時に、俺が寝てる間に密室の部屋へ忍び込んで、キモい添い寝をするほどのヤバいやつ。

 だからこそ、俺がこの部屋に入って来た瞬間、監禁されてもおかしくない。

 監禁されて、縛られて、そのまま宮子によって一生帰れない身体にされる可能性もある。


「どうしたのユウ。何か心配事でも?」

「し、心配事ではないが……入った瞬間に宮子が現れたりしないかなって」

「ユウは心配性すぎ。ちゃんと歓迎するから安心して」

「いや、むしろ歓迎されないというなら帰るが」


 美波に「さっさと開けろ」と言われ、俺は嫌々ドアに手を掛ける。


「お邪魔しま」


 俺がドアを開けると……。


「あっ♡ 雄一くん!」


 玄関先には裸エプロンで包丁を持った宮子——。

 バタン、と俺は開けたドアを閉める。


「どうしたユウ。顔が青い」

「ゴキブリ並にとんでもない特●呪物がいたんだ」

「?」

「お前の姉のことだよ。裸エプロンしてた」

「宮子姉さんは基本家では裸。エプロンしてるだけマシ」

「それ、エロいというより汚いな」


『ちょっと雄一くん! インターホン越しに汚いって聞こえてるから! わーん、酷いよー!』


 インターホンから宮子が泣き喚く声が聞こえてくる。


「やかましい! この公然猥褻女が! また服着たら教えろ!」


 やっぱ安易にこんな所来るんじゃなかった。

 いくらこの前の映画で宮子だけハブったからって、こいつの家に来たら襲われるに決まってる。


『ちょっと宮子!』


 ん? インターホンに遥の声が入った。

 なんだ、遥もちゃんといるじゃないか。


『アンタ、雄一が来るのになんつー格好してんのよ! 乳首とか、下とかも丸見えじゃない!』

『丸見えじゃなくて見せるの! グラドルのポロリを雄一くんにプレゼントっ』


 見せる気満々なのに何がポロリだ。


『て、てかその包丁はなに? 料理なんてしたことないくせに』

『これは……雄一くんのは・ら・わ・た♡欲しいなって』


「帰るわ」

「うん。その方がいいと思う」


 さすがの美波も同情した。


『ちょっと待って雄一くん! 冗談! 雄一くんのこの包丁は雄一くんの棒を切り取って保管しようと!』

「どっちにしても帰る! どっちを切られても死ぬわ!」

『あれ、これって雄一と繋がってんの?』

「遥、そいつの凶器を没収して服を着せろ。部屋に入れん」

『了解。ほら宮子いくわよ』

『えー? もー、冗談通じないなぁ雄一くーん』


 こうしてやっと俺は部屋に入れるようになった。

 部屋に入るだけで何分かかってんだよ……!



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