放課後の顔

芽春

何者

「それでは皆さん、さようなら。また明日」


 LHRが終わった。


「ふー……終わったぁ」

「僕は後片付けをしてから帰るよ。またね、みんな」

「おつかれー」


 僕は消しカスを纏めてゴミ箱に放ったり、机を雑巾かけしたりして、

一足遅れて委員会室を出た。下駄箱に向かうと、まだ帰っていない生徒達の雑談が耳に入る。


「それにしても……あいつ真面目だよなー。

片付けとか面倒な事全部やってくれるし」

「ほんとほんと。委員会決めの時も真っ先に立候補したらしいし、なんて言うか絵に書いたみたいな委員長キャラだよね」

「だよなー。きっと家とかじゃあ躾に厳しい両親に睨まれながら大学受験の勉強でもしてるんだろうな……俺達も見習うべきか? 」

「いやぁ僕達にはキツいよ……

僕らみたいな普通の学生は大人しくゲーセン寄って帰ろう」

「賛成、行こうぜ〜」


家に帰るまでの数十分、この会話が頭から離れなかった。


「……」


誰もいない家に帰宅し、粗末な布団に四肢を投げ出す。

しばらく洗っていないせいか、ホコリが盛大に舞ったがどうでもいい。

今の、放課後の家の僕は委員長じゃない。

しっかりしている必要は無いんだ。


僕が思うに、放課後の姿にはその人の素が現れやすい。

学校のように人に見られている場所では自分を嘘で取り繕う。


……もし、僕に親がいたなら。

僕は放課後も委員長として自分を取り繕えていたのかな。


でも現実、僕を見てくれる存在はいない。

だから一度放課後になってしまえば、こうして何者でもなくなってしまう。


ああ、早く明日にならないかな。


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放課後の顔 芽春 @1201tamago

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