第5話 準備
ヒナの案内でジーノの執務室までやってきた。
「遅かったですね。何か問題でもありましたか?」
「申し訳ありません。それはですね……えーっと」
ヒナが言葉に詰まる。正直に言うわけにはいかないし、ソフィアが起きなかったと言うのも人のせいにしているようだ。言い訳の一つも思い浮かばない。次第に顔に焦りの色が見え始める。
「いや、別にせめている訳ではありませんよ。問題ないのであればそれで結構です」
「はい、すいません……」
「さて本題なのですが……ヒナくん。ソフィアくんを服の仕立てに連れて行ってくれませんか?
ソフィアくんは昨日この街に着いたばかりでね、ついでに案内もして上げてください」
「はい、わかりました」
領主の屋敷と言うこともあり、身なりを整える事は必須と言える。しかし高価な服を買う余裕のない者も従業員の中にはいる。そのため仕事着を経費で落とすことが許されている。
普通は勝手に買ってきて、後から経費で落とすなりするところだが、ソフィアの場合はその買う場所も何処にあるか分かっていない。
さらにズボン、靴は既製品では合う物はないだろう。オーダーメイドが出来る店でないといけない。そんなお店を自力で探せと言う方が酷だ。その辺を考慮しての案内係といったところだ。
「ではよろしくお願いしますね」
「はい、失礼します」
頭を下げたヒナを見様見真似してソフィアもペコリと頭を下げる。
そして二人は執務室から退室した。
「えーっと、すいませんでした」
「えっ」
「私が寝坊したせいで、なんか怒られたような感じになってしまって」
「いえ、ソフィアさんのせいと言う訳では……それに怒られた訳でもないですよ。気にしないでください」
耳がヘタっているソフィアを見て、ヒナは笑顔で答える。
「一旦寮の方に戻りましょうか。準備が必要でしょうし」
「ニャー」
ソフィアの表情、声色から肯定だと受け取って、ヒナは寮に向け歩き始める。
明るめのブラウンの手提げ鞄。お気に入りだ。それに財布、ハンカチ、手鏡をいれる。
他に必要なものは無いかなと少し考える。これで準備は大丈夫かな。そう思い部屋を出る。
そこにはすでに準備を終えたソフィアが立っていた。
「お待たせしました。早いですね」
準備が早い方だと自負していたヒナは少し驚いた。
「これを持つだけなので」
そう言ってソフィアは手に持っている杖を軽くあげる。
「……あっ、えーっと」
「あっ、別に足が悪いとかじゃないですよ」
先回りして答えが返ってくる。
「なんというか、私足ってこんなじゃないですか」
片足をあげ、獣化により猫の足と同じ作りになっている足をアピールする。
「人間で言うところの爪先立ちの様な感じで立っているので、バランス悪いしすぐ疲れちゃうんですよ」
なるほど。確かに地面と接している面は少ないしそうなんだろう。
「獣化も良いことばかりでは無いのですね」
「むしろ良いことの方が少ないですよ。抜け毛もすごいし、着れる服も少なくなるし。コレなんか子供用の靴を無理やり履いているんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ほら、ここ」
そう言ってソフィアは踵から伸びる履き口を指さす。
言われてみれば、靴が足の形に合わせるように歪んでいるようにも見える。
「確かに、窮屈そうですね」
「でしょ」
「今日はぴったりの靴を作って貰いましょうね」
「はい!!」
歯が見えるほどの満面の笑みでソフィアは返答する。
そうして二人は街へと出かけて行った。
【五大陸】魔族の輪舞 @syu_dd
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