第4話 起床


——コンコン


 小気味良いリズムのノックが響く。

「ニャー」

 まだ寝ていたい。フカフカのお布団の誘惑からは誰も逃げれないのだ。

 ノックの音で覚醒しかけた意識は再び沈んでいく。


——コンコン


——コンコン


 少し間を開けてノック音が続く。

 悲しいかな部屋の主人であるソフィアは布団を頭から被りお休みモードだ。


——ギィー


 そっと少しだけ扉が開かれる。そこからちょこんと顔を出したのはヒナだった。

「失礼します」

 控えめに声をかけ、中の様子を伺いながら体が通れるほどに扉を開ける。

「まだお休みですか?」

 控えめの声で様子を見る。

「ジーノ様のところに案内するよう言い付かっております。御支度してください」

 ヒナとしては少し大きな声を出したが返事がない。

 仕方なくベットへと歩みを進める。ベットの上の布団は大きく盛り上がっている。そこにソフィアが居るのは確実だ。

 トントン。声と同じように控えめに布団の膨らみを叩く。


 反応がない……ヒナは形の良い眉毛をへの字にし歪める。

 どうして良いものか? ジーノは多忙なため、早めに連れて行きたいが……布団を捲るのはやりすぎだろうか? 昨日会ったばかりでどこまで許されるか境界線が分からない。

 起こすには仕方がない。そう自分に言い聞かせる。少しだけ……布団に手をかける。ゆっくりと持ち上げ中を見る。

 灰色のサラサラとした髪、それと同色の毛で覆われたツンととんがった耳が見える。


 ——ドクン


 ヒナの心臓が大きく鼓動する。

 もう少し……さらに布団をめくる。ソフィアの顔が見える。窓から差し込む光に「んっ」と少し唸る。

 ビクリ。ソフィアの僅かな反応にヒナの意識が正常値に戻る。


(私は何をしているのだろう……これでは……)


 ソフィアに声をかけるためスゥーっと息を吸い込む。

 しかし吸い込んだ空気は声とならなかった。フワリとした毛並みに目を奪われたのだ。

 触れたらきっと柔らかくて良い手触りがするのだろう。


 今日の自分は少しおかしい……いや昨日、ソフィアに出会ってからおかしいのかもしれない。

 寝ている人に触れたいなど、いつもの自分なら考えもしない事だ。しかし一度芽生えた欲は徐々に大きくなる。

 ちょっとだけなら。起こすためであれば。言い訳が頭の中を巡る。


 やがて……耳の付け根から後頭部までをそっと撫でる。

「んんっ」

 心地よさげに唸る。まだ夢の中のようだ。そんな反応に少しビクビクしながらヒナはソフィアを撫でる。

 想像した通りのフカフカで滑らかな肌触り。撫でるたびにもっと撫でて欲しそうに角度を変えてくる。そんな反応も嬉しい。

 ヒナは柔らかな微笑みを浮かべ無心に撫で続けた。


「んんー、ファーー」

 一際大きな欠伸をしてソフィアは目を覚ます。


「ニャー」

「あっ、ジーノ様がお呼びですよ。準備をなさってください」

 ヒナは必死に平静を装って言い放つ。

 ソフィアの頭の上に手がある状態では平静を装っても無理がある。しかしソフィアはお構いなしだ。

「ニャー」

 と返事をし気だるそうに身を起こす。そして大きく伸びをしてベットから抜け出る。


 ソフィアはヒナの事などお構いなしに着替えを始める。

 それを見てヒナは慌ててドアから出て行った。

「準備が終わりましたらお声がけください」

 ドア越しに声をかけた。

「ニャー」

 もうお馴染みとなった返事が返ってきた。

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