雨と点滅

鈴木魚(幌宵さかな)

雨と点滅

 雨が降っていた。大きな水滴が窓を濡らし、ガラスの表面を滑り落ちていく。

 僕は上半身をベッドから起こし、高層ホテルの外、灰色に煙る街を見ていた。

 そういえば昨日は、あまりに夜景が綺麗でカーテンを閉め忘れていた。

 隣を見ると裸のままの彼女が僕に背中を向けたまま寝ている。

「おはよう」

 小さく声をかけると

「頭痛い」

 と辛そうな声が返ってきた。

「なんだ起きてたんだ」

 僕は、そっと彼女の赤みかがった頭髪を撫でる。

「低気圧最悪」

 彼女は不満そうに唸って、僕の手を払いのけた。

 僕は嘆息して、視線を窓の外に戻した。

 雨が好きだった。規則正しく窓を叩く雨粒の音、澄んだように感じる空気、世界全体の輪郭がぼんやりとし、雲に包まれているような気持ちになる。

「僕は雨がさ、」

「雨なんか大嫌い」

 言いかけた僕の言葉に彼女の言葉が被る。

 彼女は頭まですっぽりと布団にもぐってしまった。

 ぽつぽつと、雨粒が心に当たった。

 僕はベッドの縁に座り、背中越しに彼女に語りかける

「ねぇ、やっぱり僕たち…」

 窓外の街は薄い不透明な色に覆われ、ビル群の屋上には航空障害灯の赤色が鮮やかに点滅を繰り返していた。

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雨と点滅 鈴木魚(幌宵さかな) @horoyoisakana

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