第15話 正直長すぎた転生初日


「お手! おかわり! 伏せ! ハイハイ! くるっと回って大ジャンプ!」


「全部成功しました! すごいです、ローラさん天才!」


「嘘でしょぉ!?」


「よーしよしよし! 良く出来た、偉いぞぉ!」


「ローラが撫でても怒らない。まさに犬のような懐き方」


「なんでっ……!? なんでよぉ……!」

 

 

 中身が45のオッサンだからだ。

 頭を抱える魔獣の専門家・スゥンリャには気の毒だが、こんな事に時間を掛けるのは馬鹿馬鹿しくてやってられねぇからな。


 ローラが槍を差し出した最初っからお手をかましてやったぜ。



「いやぁ、驚いたねぇ。まさかローラにここまでの才能があるなんて」


「あ、ああ。自分でもびっくりだ。実を言うと、犬の躾なんてしたこと無かったのだが……」


「こんな事が無きゃ陽の目は見なかっただろうねぇ」


「ローラ、さっきからずるい。わたしにもやらせて」


「いや、待てフラシア。これは私の役割だ。なんせ危険だからな……! おい魔獣! もう一度やるぞ!」



 やれやれ、仕方ねぇな。


 ローラが槍を振り回すのに合わせて芸をする。年相応の楽しそうな顔だ、眉間に皺を寄せた騎士の表情よりもずっと健康にいいだろう。

 レイシアとフラシアが拍手して喜び、ドミスもご満悦だな。都会出身の3人はいいとして、同じように笑ってる冒険者のドミスはそれでいいのか? もうちょっとこう、スゥンリャみたいに警戒してた方がよくねぇか。

 ……俺が言う話じゃないか。



「実際、思った以上の成果だよ。皆を治療している間、近くに居てくれればいいと思ってたけどねぇ。これならもっと利用できるかもしれない。スゥンリャはどう思う?」


「……そうね……。ちょっと本当に信じられないんだけど、現実に言うことを聞いているワケだし。ここまでくると反対もできないわね」


「もっと利用、ですか?」


「ああ。この子を、森からの脱出に使えれば……選択肢が劇的に増えるよ」



 やっとここまでこぎ着けたか。


 助けると決めてから長かった。もう日が暮れちまってるぞ。


 だが、ぶっちゃけ俺の仕事はもう終わったようなものだ。守らせてさえくれるなら、冒険領域の危険に関しては、ドラゴンでも来ない限りなんとでもなる。


 後は、ドミスたちがどんな手段で森から出ようとするかだ。


 まあやりようは色々とあるだろう。手伝えることがあれば手伝ってやればいい。


 にしても、白虎の力があれば軽く助けられると思ったんだが……まさかコミュニケーションの面でここまで苦労するなんてな。


 正直疲れたわ。

 慣れねぇことはするもんじゃねぇってことか。




 ……と、一息ついたつもりだったんだが、この日はもう一波乱あった。

 深刻な話じゃない。ドミスたちが俺を連れ帰ったことで、ゴブリンの巣に避難していた村娘たちが大パニックになったのだ。

 当たり前の話だな。


 結局、俺は彼女たちが落ち着くまでひたすらローラに芸をさせられることになったのだった。


 人間は好きなんだけどな……やっぱ四六時中、集団でいるのは苦手だわ。

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